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200 YH4qh9uu【質問】肩の骨にカルシウム付着

80代前半の女性です。右肩の痛みで受診し、エックス線撮影をしたところ、肩甲骨にカルシウムが付着しているといわれました。滑りを良くする注射を2週間に1回受けていますが、関節鏡でカルシウムを取り除くことはできないのでしょうか。骨粗鬆(そしょう)症の薬を服用していますが、今の骨密度はほぼ正常だといわれています。
 

 徳島赤十字病院整形外科 武田芳嗣先生
 

【回答】 薬服用や注射などで治療


 
「肩甲骨にカルシウムが付着」と書かれてありますが、おそらく上腕骨頭にカルシウム(石灰)が付着していたのではないかと考えます。これは石灰沈着性腱板(けんばん)炎とよばれるもので、腱板(肩甲骨から上腕骨頭に付着する四つの腱の総称)内に石灰が沈着し炎症を生じることで強い痛みと動きの制限を生じる病気で、40~50代の女性に多くみられます。
 
 典型例では、痛風発作のように、突然激烈な肩の痛みを生じ、全く動かすことができないくらいになりますが、副腎皮質ステロイドホルモンの注射や消炎鎮痛剤の服用により短期間に痛みが消えていきます。しかし、中にはご質問をいただいた女性のように痛みが慢性化することもあります。石灰が沈着する原因はよく分かってはいませんが、骨密度とは関係ありません。
 
 治療は非ステロイド性消炎鎮痛剤の内服や外用薬の使用、副腎皮質ステロイドホルモンの肩峰下滑液包(けんぽうかかつえきほう)(腱板と肩甲骨の屋根=肩峰=の間に存在する袋)内への注入などが一般的です。また超音波画像で確認しながら針を刺して石灰を吸引したり、体外衝撃波で石灰を砕いたりする治療も行われています。
 
 しかしこのような治療にて改善が得られない場合は、お尋ねのように関節鏡視下に石灰を摘出することもあります。
 
 手術は全身麻酔下に行います。肩峰下滑液包内に関節鏡を挿入して腱板を観察します。通常、石灰は腱の中に沈着していますので、直接石灰を観察することができません。そこで術前の画像や術中超音波を参考に腱板内に針を試験的に刺しながら石灰を探します。
 
 沈着部に針が入りますと、白色の石灰が顆粒(かりゅう)状に漏れ出てきます。石灰沈着部位が確認できれば、繊維に沿って腱に切開を加え、石灰を摘出します。沈着量が多い場合は摘出後に腱板に大きな欠損ができるため、腱板を縫合する必要があります。摘出のみなら1時間以内に終了します。
 
 手術後は、摘出のみの場合は、三角巾などで肩の安静を図りながら、痛みを感じない範囲で少しずつ肩を動かし始めます。腱板を縫合した場合は、4~6週間の装具による固定後から肩の運動を開始します。
 
 石灰沈着が痛みの原因であれば手術によって痛みの軽減が期待できますが、エックス線で石灰沈着が認められても、それが必ずしも痛みの原因になっているとは限りません。症状のない肩でも約3~7%には石灰沈着が認められると報告されており、手術を考慮するにあたっては、他に原因がないか十分検討してから適応を決定する必要があります。

【写真説明】肩のエックス線写真。矢印は沈着した石灰
© TOKUSHIMA MEDICAL ASSOCIATION.