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【質問】 頻尿気味で薬物治療

 75歳の男性です。昨年、少々頻尿気味だったので、前立腺がんの血液検査を受けました。数値は8.4と高かったので通院し、ハルナールという治療薬0.1ミリグラムを服用しながら再度、血液検査を受けましたが、結果は8.4、7.9、9.4、10.0と上昇傾向でした。精密検査の結果、前立腺がんと診断されました。年齢的にも手術より薬物治療がよいと医師に勧められ、現在、ハルナールとカソデックスを服用しています。退院2週間後の血液検査では、数値が6.0に下がっていて、肝臓障害もありません。前立腺がんの症状や治療方法について、詳しく教えてください。



【答え】 前立腺がん -手術・放射線療法で完治可-

徳島大学病院 泌尿器科長 金山 博臣

 前立腺は男性の膀胱(ぼうこう)の出口にあり、尿道の周りを取り囲んでいるクルミ大の臓器です。前立腺から発生する病気としては、前立腺肥大症および前立腺がんがあり、どちらも高齢になるほど発症しやすくなります。

 早期がんでは症状がなく、がんが進行するにつれて排尿困難、排尿痛、血尿などの症状が出ます。また、腰椎骨などに転移し、腰痛などの症状が出てきます。

 前立腺肥大症と前立腺がんは合併することもあり、その場合は、早期前立腺がんでも、頻尿や排尿困難など前立腺肥大症による症状を伴います。

 前立腺がんは、前立腺特異抗原(PSA)という血液中の腫瘍(しゅよう)マーカーにより早期発見が可能です。一般的に1ミリリットル当たり4ナノグラム(ナノは10億分の1、以下単位同)以下を陰性、4-10をグレーゾーン、10を超えると陽性と判定されます。

 前立腺の触診や超音波検査、腫瘍マーカーなどから、前立腺がんが疑われた場合は、組織検査により、がんを確認します。早期がんの場合には症状が出ないことが多く、早期発見のためには、PSAの血液検査による検診が有用です。徳島市では2001年度から行っています。

 前立腺がんは、進行度や年齢、合併症の有無などにより、治療法を選択します。がんが前立腺の中にとどまる早期前立腺がんの治療法には、手術、放射線療法、ホルモン療法などがあります。

 手術は、前立腺と精のうをすべて摘出し、膀胱と尿道を合わせます。通常は下腹部を切開します。手術により前立腺がんの完治が期待できます。前立腺肥大症では、通常おなかを切らずに尿道から切除することが多く、がんの手術とは全く異なります。

 放射線療法は、体外から照射する方法(体外照射)と、前立腺組織内に直接照射する方法(小線源療法)があります。昨年から、放射性物質の入った小さな金属カプセルを植え込む永久留置による小線源療法も可能になりました。徳島大学病院では間もなく始めます。放射線療法も完治が可能です。

 ホルモン療法は、男性ホルモンが前立腺がん細胞に作用しないようにします。男性ホルモンの95%をつくり出す精巣の摘出、1~3カ月ごとの注射薬または内服薬による治療などを行います。ホルモン療法は、早期前立腺がんだけでなく、がんが身体のあちこちに転移した場合にも効果が期待できますが、基本的にはがんを完治させる治療ではありません。なお、悪性度が低く、がんが小さい場合は、経過を見る場合もあります(待機療法)。

 相談者は頻尿気味で、前立腺肥大症の治療薬であるハルナールを服用していますので、前立腺肥大症も合併しているものと思われます。また、PSAは8-10程度なので、早期前立腺がんと思われます。このような場合、手術、放射線療法、ホルモン療法のどれでも選べます。

 手術後に、尿失禁や勃起(ぼっき)障害を起こす可能性があります。放射線療法は、排尿痛や直腸出血などの危険性があります。ホルモン療法の副作用は、勃起障害や、時に更年期様症状である発汗・ほてり・顔面発赤・顔面紅潮などがあります。またホルモン療法は、治療を続けている間に効かなくなることがあります。

 がんを完治したい場合は、手術か放射線治療を選びます。一般的には、手術は重大な合併症がなく、10年以上元気に生活できると考えられる75歳までの方が対象になります。ホルモン治療をしながら、その後に手術や放射線治療をすることもあります。なお、相談者が内服しているカソデックスは抗男性ホルモン剤で、精巣摘出術や注射薬より効果は弱いとされています。今後の治療は、主治医と相談し、よく話し合って決めてください。

 前立腺がんは、早期発見早期治療が大切です。50歳を超えたら、ぜひ年に1回はPSAによる検診を受けてください。

徳島新聞2004年5月2日号より転載

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