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【質問】 治療当初になかった症状が

 50代後半の男性です。昨年9月ごろから残尿感があり、今年1月、排尿の際に痛みがあったため泌尿器科を受診しました。細胞検査の結果、前立腺癌(せんがん)と診断され、月2回通院しています。薬と注射による治療です。最近になり最初のうちはなかった症状が出始めました。1日に数回、急に暑くなって汗がにじみ出たり、背中がぞくぞくしたりします。疲れやすく、頭もすっきりしません。病気と関係があるのでしょうか。食事はたくさん食べられます。また、知人から紹介され、電位治療マットを使っていますが、このまま使っていてよいのでしょうか。



【答え】 前立腺癌-内分泌療法の副作用-

徳島大学医学部 泌尿器科助教授 金山博臣

 前立腺は男性の膀胱(ぼうこう)の出口にあり、尿道のまわりを取り囲んでいるクルミ大の臓器で、精液の成分である前立腺液を分泌しています。前立腺から発生する病気としては、前立腺肥大症および前立腺癌がよく知られており、どちらも高齢になるに従い発生頻度が増します。

 前立腺癌は日本ではまだそれほど多くありませんが、米国では男性の癌の中で発生率が第1位、癌による死亡数は肺癌に次いで第2位であり、今最も注目されている癌の一つです。高齢化や食事の欧米化により、日本でも急速に増えつつあり、発生率の増え方はすべての癌の中で最悪で、10年後には約2倍になると想定されています。

 そのほか、前立腺癌の特徴としては、骨に転移しやすいこと、男性ホルモン依存性であることです。

 前立腺癌は、前立腺特異抗原(PSA)という血液中の腫瘍(しゅよう)マーカーを用いるようになってから目立って発見率が高くなりました。排尿障害などの症状のために病院を受診し、直腸診や超音波検査、腫瘍マーカーなどから前立腺癌が疑われた場合には、前立腺針生検による組織検査が行われます。

 早期癌の場合には症状が出ないことが多く、早期発見のためにはPSAの血液検査による検診が有用です。このため最近では血液検査による前立腺癌検診が取り入れられることが多くなってきました。

 前立腺癌と診断された場合は、病気の進行程度や年齢、合併症の有無などにより治療法が選択されます。治療法には根治的前立腺摘除術、放射線療法、内分泌療法などがあります。

 内分泌療法には、男性ホルモンの95%を作る精巣(睾丸(こうがん))の摘出手術、4週間ごとの注射薬による治療、内服薬による治療などがあります。

 あなたの受けている治療法は、4週間ごとの注射薬と内服薬による内分泌療法と思われます。注射薬は精巣による男性ホルモン生産を抑制する作用があり、血液中の男性ホルモンが低下します。その副作用として、それほど多くはありませんが、女性の更年期によく現れる発汗、ほてり、顔面発赤、顔面紅潮などの症状を呈するホットフラッシュがあります。あなたの症状はこのような内分泌療法による副作用と思われます。

 なぜそのような症状が出現するのかはっきりしていませんが、男性ホルモンの低下により、脳内の内因性オピオイドペプチド(内因性モルヒネ様物質)が低下し、温度調節中枢が刺激され、末梢(まっしょう)血管が広がって症状が出現すると考えられています。

 このようなホットフラッシュに対する治療法としては、エストロゲン剤、黄体ホルモン剤、漢方薬などによる薬物療法がありますが、十分な効果が得られない場合もあります。治療薬や治療法の変更も一つの方法かもしれません。

 また、ホットフラッシュ以外の内分泌療法の副作用としては、勃起(ぼっき)障害、骨塩量の低下、肝障害、そのほか肩こりや頭痛などがあります。いずれにしても担当の先生とよく相談してください。なお、電位治療マットがどのようなものか分かりませんので、申し訳ありませんが使用についての是非はお答えできません。 



 本年度から徳島市基本健康検査(7-10月)で、血液中のPSAの測定による前立腺癌検診が始まります(55歳以上の男性対象、一部負担金が必要)。わずかな採血で測定可能な非常に感度の高い検査です。前立腺癌の場合は、このPSAが異常に上昇しますが、他の前立腺疾患(前立腺肥大症、前立腺炎など)でも上がる場合がありますので、あまり心配せずに泌尿器科専門医を受診してください。(徳島市医師会前立腺癌検診委員会)

徳島新聞2001年7月1日号より転載

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