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 ことばの遅れを示す子どもの中にはそのまま放置してもやがて正常にしゃべり始める子もいますが、中には脳障害の症状のひとつとしてことばの遅れを示す場合もありますから注意が必要となります。

 乳幼児健診でことばの遅れを見たときには、早期に精密検査などが必要であるのかどうかはっきりさせることが求められます。とくに鑑別を要するものは聴力障害精神遅滞自閉症の3つです。この3つの疾患はそれぞれ異なる治療または教育が必要な疾患であり見逃すわけにはいきません。

 最も早く診断しておく必要があるのは聴力障害についてですが、最近は新生児期に聴力スクリーニングする分娩施設が増えてきています。聴力に異常がある場合には音や呼びかけに反応が乏しく乳児期の喃語(なんご)も少なくなります。しかし表情は豊かで視覚情報にはよく反応し、運動機能や知的発達に異常はなく、対人関係にも問題はありません。聴力障害はことばの遅れが明らかになる前にはっきりさせることが大切です。

 精神遅滞は音に対する反応は良好ですが、呼びかけや問いかけに対する反応はあるものの反応がゆっくりしています。視線は合いますが指示に対する理解が遅く言語発達だけで なく全般的な知能発達が遅れ、運動発達も遅れることが多いものです。

 自閉症では音に対する反応はいいのですが呼びかけへの反応が乏しい、相手と目を合わせない、ひとり遊びが多い、人見知りをしないなど社会的相互関係を行うための言語以外の行動をとることが困難になっているわけです。相手の感情、周囲の状況が理解できず、適切な反応がとれません。他人と喜びや悲しみを分かち合う、共感する、あるいは共感を求めるなど感情の共有が困難なのです。

 ことばの遅れにはこの他に言語環境が不適切な場合があります。家族がまったくしゃべらない場合や子どもが虐待を受けている場合などです。子どものことばの遅れに気付いた場合には原因診断が最も大切であり、原因によってその対応が異なることは言うまでもありません。

2004年3月23日掲載

 小児科外来で発達に関する相談の中で多いのはことばの遅れについてではないでしょうか。ことばの遅れの原因にはさまざまなものがあります。広汎(こうはん)性発達障害<自閉症>、全般的な知能障害、聴力障害<難聴>、脳性麻痺などの脳の器質的な疾患や環境性・心因性障害などが原因として挙げられます。治療の必要な疾患を見逃さないためには、正しい診断をつける必要があります。今回はことばの遅れの原因についてお話ししたいと思います。

 子どもが1つか2つの単語をしゃべることが出来るようになるのに約1年かかります。耳から音声が入る。入った音声を認知してことばとして理解する。頭の中でことばを整理して組み立てる。口からことばを出す。周囲の反応を見て修正しながら音声を発する。これを繰り返して、意味のある単語1~2語をしゃべるようになるのに約1年かかるのです。したがってことばが正常に発達するには聴力などの感覚機能とある程度の知能、口や咽喉などの運動機能、さらに対人関係などの社会性が発達していることが必要とされます。

 ことばの遅れには3つの原因が考えられます。

1. 聴力の問題
2. 脳の高次機能の問題
3. 運動機能の問題

の3つです。

 聴覚の異常には外耳から内耳までと内耳から聴神経や大脳の聴覚野までの問題に分けて考えることが出来ます。外耳の奇形や中耳炎などによる難聴は伝音性難聴と呼ばれ、早期発見が大切です。新生児仮死や先天性風疹症候群、一部の抗生物質の副作用による難聴は感音性難聴と言われ、予防が最も大切です。脳の高次機能に問題がある場合として、精神遅滞や自閉症、発達性言語遅滞、単純性言語遅滞などがあります。これらの疾患はことばの遅れで気付かれることが多く、ことばの遅れを示す子どもを見たときに正確な診断をすることが求められます。ことばの出力に問題があるのは脳性麻痺などの運動機能障害ですが、精神遅滞を合併しなければことばの遅れを示すことは少ないものです。

2004年3月16日掲載

 生後3~4ヵ月の赤ちゃんはことばをしゃべることは出来ませんが、人の顔を見ながらしきりに口を開けて何か話しかけてきます。「アーアー」とか「オーオー」と言って一生懸命に話しかけてきます。大人が顔を見て笑いかけるとニコッとします。あやすとキャーキャー大声を出すこともあります。赤ちゃんとコミュニケーションがとれた瞬間です。少し月齢が進むと赤ちゃんは「ママママ」とか「ダダダダ」などの音声を出してさかんにしゃべり始めます。これを喃語(なんご)と呼びますが意味は不明です。1歳近くなると音声をさかんにまねるようになり、正しくまねることが出来るようになると、「マンマ」や「ブーブー」など意味のある単語をしゃべるようになります。正常発達の乳児では1歳で1~2語の意味のある単語を話し、2歳で2語文を話し、3歳で簡単な会話が出来るようになります。しかし、ことばの発達には大きな個人差があって、その生育環境が大きく作用しますから、1歳で単語が出なくても必ずしも異常とは限りません。しかし1歳半で意味のある単語が1語も出ないとか、2歳半で2語文が出ない場合にはことばの遅れがあるとするのが一般的です。またこの基準に合わなくても知能や運動機能の発達に遅れがあるとか、コミュニケーションがとり難いなどの問題がある場合には積極的な精密検査が必要と考えられます。

 ことばが発せられるには、耳から入ったことばが大脳で認知される必要があります。音声は中耳、内耳、聴神経を通って大脳の聴覚野に入ります。さらに大脳皮質で情報分析が行われ、ことばの意味が理解されて、また文字などの視覚情報と統合してことばが形成されます。ことばが発せられるには脳全体で概念の形成がなされていることが必要になります。そのため、ある程度の知能の発達、聴覚などの感覚と運動機能の発達、社会性を含めた情緒面の発達が必要とされます。ことばの遅れの背景には脳の発達という大きな問題が隠れている場合があり注意する必要があります。

2004年3月9日掲載

 今月はせきの話をしています。せきは気道の分泌物などを体外に排出するための防御反応のひとつですが、子どものせきが長引くと悪い病気ではないかと心配なものです。今回は長引くせきについて考えてみました。

 小児科の外来でせきがなかなか止まらない場合がありますが、多いのはアレルギー疾患によるもの、経過の長い特別な感染症が原因になっているもの、育児環境によるものなどが考えられます。

アレルギー疾患の代表は喘息で、乾いたせきが夜間に多く、せき以外に呼吸音の異常や呼吸困難が見られます。家族にアレルギー体質の人がいることや本人にアトピー性皮膚炎などがあれば喘息を疑うことになります。鼻炎や副鼻腔炎がある時にも、鼻汁が鼻の奥から咽喉に流れてこれが刺激になってせきが続くことがありますが、この時のせきは湿ったせきで、朝寝起きに一番多く夜間よりは昼間に多いものです。

 感染症による長いせきには、マイコプラズマ、クラミジア、百日咳などの細菌が原因になるものがあります。いずれの疾患もあまり熱は出ません。これらのせきは乾いたせきが夜間に多く、ふつう家族内や集団内での流行が見られます。これらの感染症は適切な抗生剤療法で治療が出来るので見落としてはなりません。また感染症の中でも結核によるせきは家族内感染によるものが多く、家族に結核があるかどうかがもっとも重要です。

 アレルギーや特別な感染症以外でせきが長く続く場合に、家庭内に喫煙者がいて子どものせきが続いていることがあります。健康な子どもだけでなく、喘息などの気道の過敏な人にとってたばこの害は計り知れないものです。

 また保育所や幼稚園などの集団生活を始めたばかりの子どもが繰りかえしかぜをひいてせきが長く続く場合があります。あまり繰り返すようであれば集団生活をしばらく控えるようにします。

 さらに長引くせきに加えて発熱が持続するとか元気がない、せき込んで嘔吐が激しい、体重増加不良や成長障害が見られる、呼吸困難や低酸素症状がある場合などには慢性の重症疾患が隠れていることがありますので注意が必要です。

2004年2月24日掲載

 今月は小児科でよく見るせきについてお話ししています。せきは気道内の分泌物や異物を排除する生体の防御機能のひとつです。新生児や幼弱乳児では痰の喀出力が弱く、せきをしても気道内の異物を十分に排出することが出来ません。このことが成人や年長児に比べてせきの回数が多かったり長引いたりする原因になります。またせきが長引くことで栄養状態や睡眠が影響を受けて成長が障害されることもあり、子どもにとっても家族にとっても長引くせきは悩みの種です。

 せきには乾いたコンコンというせきと、痰をともなう湿ったゴホゴホしたせきがあります。乾いたせきは上気道からのせきで大部分は感冒、急性咽頭炎が原因と考えられ、数日から1週間以内におさまります。痰をともなう湿ったせきは咽頭よりも下の気道、つまり気管や気管支、肺に原因があって長引くせきが多いものです。せきの持続が1週間以上続くものは遷延性のせき、30日以上持続するせきは慢性のせきとされます。しかし慢性のせきのように見えても、急性のせきが反復しているものがあります。とくに保育園など集団生活を始めたばかりの時期には繰り返してかぜをひくので、せきが長引いているように見えることがあります。いずれにしても長引くせきの中には重要な疾患が隠れている可能性があり注意が必要です。

 せきの原因は年齢によっても頻度が異なります。全年齢を通じて多いのは咽頭炎(感冒)や気管支炎によるせきです。新生児では先天性の気道の異常や狭窄などによるせきがあります。哺乳児によくせき込む場合には気道に何か異常があるのかも知れません。乳児期にはウイルス性の感染症やアレルギーによるせきが多くなります。家族にアレルギー体質がないか、アトピー性皮膚炎などの基礎疾患がないかなどに注意すべきです。幼児期になると鼻炎や副鼻腔炎によって鼻汁が咽喉に流れ落ちること(後鼻漏)によってせきが出ることがあります。さらにマイコプラズマやクラミジアなどの細菌性の気管支炎や肺炎が見られるようになります。学童期以降には心因性のせきが隠れていることがあります。それぞれの年齢群で多いせきの原因を考えながら注意深い観察が必要となります。

2004年2月17日掲載

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