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 せきは小児科外来で経験する訴えの中で最も多いもののひとつです。その多くは呼吸器系のウイルス感染症によるもので、治療の有無に関わり無く一時的な症状で終わりますが、せきが長く続くものの中には原因や治療を十分に考えなければならないものがあります。今回は日常よく見られるせきについて考えてみました。

 せきは気道内の異物を排除するために起こる生体の防御反応のひとつで、必ずしも有害なものばかりとは言えません。せきが起こるのは、気道の粘膜下にある受容体と呼ばれる部分が炎症刺激や機械的刺激、化学的刺激や温度変化などの刺激を受けることから始まります。その受容体の興奮が自律神経を介して延髄下部のせき中枢に伝えられ、これが反射的に脊髄神経を介して横隔膜や肋間筋の急激な収縮を来すことによってせきが起こります。せき受容体は気道の炎症やそれにともなう分泌物、異物のごえん、刺激臭のあるガスやたばこの煙などの吸引、寒冷刺激などに反応します。せきが起こり肺内の分泌物や異物が体外に排出されるとせきを誘発する刺激がなくなってせきは止まります。

 せきが長く続くのは、せき受容体に対する刺激が慢性的にまたは反復性に起こっている場合や、せき受容体の過敏性がこうしんしていることが原因と思われます。小児の気道は成人に比べて狭く、また分泌物や異物を排出する力が弱いために、せきの回数が多く長く続く傾向があります。環境の大気汚染や家庭内の喫煙などは受容体が繰り返し刺激を受けているものです。アレルギー体質の子どもが長引くせきをするのはせき受容体の過敏性が亢進しているためだと思われます。

 せきの原因で最も多いのはウイルス性のかぜによるものです。せきの出始めに安易にせき止めの薬を使用すると、かえって分泌物を気道に残して病気を長引かせる結果になることがあります。せきの程度や原因を十分に見極めて対処することが大切です。

2004年2月10日掲載

 今月はインフルエンザについてお話ししてきました。インフルエンザにはA型とB型がありますが、いずれの型でもかかると高熱が急に出て頭痛や咽頭痛、筋肉痛や消化器症状など全身の症状が出現します。このウイルスはのどや鼻の粘膜から侵入して人の細胞内で増殖しきわめて短期間にウイルスを放出し、この時に発病します。潜伏期間は1~3日です。昔からインフルエンザは数十年毎に新型ウイルスが出現して、SARSと同じように大勢の犠牲を出したことが知られています。つい最近までは治療薬はありませんでした。治療と言えば、発熱や痛みに対する対症療法のみしかありませんでしたが、ここ数年の間に抗ウイルス薬が開発され一般に使用できるようになりました。

 インフルエンザの治療薬はまずA型にだけ効果のある薬剤がみとめられましたが、この薬には神経系の副作用があり使いづらい点がありました。その後、A・B両型に有効な吸入薬と内服薬が開発され、昨年やっと小児用の薬が発売されました。昨年はインフルエンザが例年よりも多く発生したため薬剤の不足に悩まされました。しかしこの薬剤は世界の生産量の60%を日本で消費するなど全世界の子どもたちがこの薬で治療できる状態にはありません。豊かな国、日本ならではの現象と言えるでしょう。
 
 検査キットや抗ウイルス剤の使用でインフルエンザに対する取り組みに大きな変化が生じていますが、乳幼児にとってインフルエンザが重篤な感染症であることに変わりはありません。神経疾患や喘息などアレルギー疾患、その他の慢性疾患を持っている人はとくに注意が必要です。インフルエンザは毎年、少しずつ変異して流行を続けています。数十年に一度、新型のインフルエンザが出現すると考えられています。新型ウイルスには現在の抗ウイルス薬はもちろん効きません。感染予防を心がけ、安静、保温、栄養、睡眠などに注意して寒い時期に体力を消耗しないように注意してください。

2004年1月27日掲載

 インフルエンザに対する医療には最近、大きな変化が見られました。ひとつはワクチンについての再評価がなされたこと。もうひとつは迅速診断キットの開発と治療薬の発売です。とくに診断キットと治療薬はインフルエンザに対する医療を根本的に変えてしまうものです。つまり正確に診断して効果のある抗ウイルス剤で治療を行うことが出来るようになったのです。そのために治療期間が短縮し、合併症で苦しむことも少なくなり、不必要な薬剤の使用も減少しています。

 以前には寒い時期に高熱が出て風邪症状があれば、ほとんどの疾患をインフルエンザ様感冒として治療していました。しかし感冒の中にはインフルエンザ以外のウイルスによるものや細菌感染による疾患が紛れ込んでいた可能性があります。これまではインフルエンザの診断にはウイルス分離や血中抗体価の測定を行っていました。ウイルス分離は現在でも限られた施設で行われるに過ぎません。また血中抗体価は病気が治ってから上昇するので、実際に苦しい症状がある時の治療には役に立ちませんでした。しかし迅速検査のキットを使うと20~30分以内に結果が判定でき、治療には大変役立つようになりました。

 検査は鼻汁や咽喉粘膜から試料を採取して試薬と反応させるのですが、実際のウイルス分離に比べると試料の種類や採り方、その採取時期などによって異なる結果が出ることがあります。これは採取された試料中のウイルス量が少ないと正確な結果が得られない場合があるためです。検査時期が早すぎる場合や咽喉粘膜の擦過の仕方が弱い時には、インフルエンザであっても結果が陰性になることがあります。あまりインフルエンザを恐れて、発熱直後に医療機関を受診して検査を受けても正確な結果を得ることが出来ない場合があります。もちろん症状が激しく重症感がある時には急いで医療機関を受診する必要があります。発熱以外の症状や全身状態、周囲の人や家族のインフルエンザ流行の有無などを参考にして、迅速診断キットは上手に利用したいものです。

2004年1月20日掲載

 毎年、寒くなるとインフルエンザが流行します。体力・抵抗力のない乳幼児や老人はかかりやすく、かかると治りにくく中には重症の合併症で苦労する人もあります。またインフルエンザは伝染力が強く数年毎に大流行して猛威をふるうため、一度はやり始めると集団生活をしている人はかかる危険性が高くなります。また乳幼児ではインフルエンザによる脳炎・脳症の発生が問題になります。しかしここ数年、インフルエンザに対してさまざまな医療上の進歩が見られ、診断・治療面で随分変わってきています。インフルエンザに対する話題が毎年でてきて世間をにぎわせていますが、昨シーズンは年末から比較的大きな流行になり救急現場は大変な思いをしました。今年はどうでしょうか。

 インフルエンザに対する医療の進歩のひとつはワクチンの効果に対する考え方の変化です。従来、ワクチンを接種してもあまり効果がないとか、ウイルスの型が違えば効果がないなどと否定的な考えをする人が多く、学校などで行っていた集団接種を中止した経緯があります。しかし集団接種の中止後、接種をしていた時よりも老人の死亡率が高く、ワクチンは接種した本人のインフルエンザ予防効果は低くても、家庭にインフルエンザを持ち込まないことで、老人や乳幼児のインフルエンザの予防に役立っていたことが明らかになったのです。

 インフルエンザワクチンは不活化ワクチンで、免疫を持たない乳幼児には免疫の出来にくいワクチンです。ワクチンの効果持続3~5ヵ月と比較的短期間です。また乳幼児に対する予防効果は20~40%であるとされ、成人に比べると有効率で劣ることも知られています。しかし症状や合併症の重さを考えれば、発熱やショックなどの副反応も比較的少なく、できればワクチン接種を行いたいものです。

 例年、インフルエンザが流行する頃になるとワクチンや検査試薬、治療薬剤の不足など話題に事欠きません。昨年末にはワクチン不足で希望者全員に接種が出来ておりません。なんとかインフルエンザにかからず冬を乗り切りたいものです。

2004年1月13日掲載

 人と動物の違いは歩くことと言葉を使うことです。この2つによって人は動物と分かれたと言っても過言ではありません。人は1歳ころに単語を話しはじめ、つたい歩きからひとり歩きを始めます。しかし歩行や言葉の発達には個人差があります。1歳で歩かない子やしゃべらない子を経過観察してみると、ほとんどは1歳半までには言葉も歩行もできるようになります。従って、1歳6ヵ月健診は赤ちゃんが人間らしく発育しているかをチェックする最初のポイントになります。

 ころばないで上手に歩くことができ、意味のある単語を話す、絵本を見てワンワンなどの知っている動物を指差し、人形や自動車などを与えると抱いたり押して走らせたりします。ボールを転がすなど、相手をしてやるととても喜んで遊ぶようになります。つまりこの時期、発達のレベルは乳児期に中脳優位であった状態から大脳半球優位に変わることで運動面、言語面、生活習慣や社会性などにおいて、赤ちゃんが人間らしくなる最初の時期であると言えます。

 1歳6ヵ月健診では、乳児期に疑われていた軽度の脳性麻痺、精神運動発達遅滞、自閉症、聴力障害などを明らかにしなければなりません。とくに言葉の発達からは聴力障害の有無や知的発達の遅れがないか、コミュニケーションの障害がないかなどをチェックする必要があります。聴力障害、知的発達障害、自閉症はいずれも早期発見により早期に治療や教育的配慮をする必要があり、1歳6ヵ月は診断するのに大変重要な時期と考えられます。

 またこの時期には離乳食が完了し、排尿や排便のしつけが始まる時期です。生活リズムが確立して、昼間の活動が増加するとともに夜間の睡眠も安定してきます。自分の名前に反応し、他の子どもにも興味を示します。さらに1歳過ぎまでに完了する必要があるポリオ、BCG、3種混合、麻疹ワクチンなど定期予防接種が出来ているかの確認をしておかなければなりません。1歳6ヵ月健診はとても大切な健診であることを覚えていてください。

2003年12月23日掲載

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