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【質問】 10年間異常ないのだが

 40歳の男性です。10年ほど前に入院した際、レントゲン撮影で異常が見つかり、精密検査の結果、肺静脈瘻(ろう)と診断されました。「静脈なので今は心配なく、様子を見ましょう」と、定期的に健診するように言われましたが、その後は仕事が忙しく、会社の定期健診しか行っていません。定期健診は正面のレントゲン撮影だけで、異常は見つからないようです。異常が見つかるまで何もしなくていいでしょうか。



【答え】 肺動静脈瘻 -手術か経過観察の相談を-

たかはし内科院長 高橋安毅(徳島市国府町)

 初めに、心臓から肺への血液の流れについて説明します。大静脈を通って心臓に戻った酸素濃度の低い血液は、右心房、右心室、肺動脈を通った後、肺の中で細く枝分かれした毛細血管へ入って肺胞で酸素を受け取り、肺静脈を経て左心房に戻り、さらに左心室を通って再び全身へ酸素を供給しに巡ります。

 このように、肺では、血液が肺動脈→毛細血管→肺静脈と流れる間にガス交換が行われます。また肺は、全身から流れてくる血栓(せん)や細菌などの有害な物質を止めるフィルターとしての役割も果たしています。

 この肺動脈と肺静脈が毛細血管を経ずに直接つながってしまう病気を「肺動静脈瘻」といいます。ご質問にある「肺静脈瘻」はおそらくこの病気のことだと思われます。この病気では、ガス交換を経ない酸素濃度の低い血液が肺動脈から肺静脈に流れ込み(動静脈シャントという)、血液中の酸素濃度が低下します。

 さらに、肺のフィルター機能が損なわれるために、本来は肺で止まるはずの血栓や細菌が脳などほかの臓器へ飛び、血管が閉塞(そく)(塞栓(そくせん)症)したり、膿瘍(のうよう)(膿(うみ)がたまること)ができたりすることもあります。

 肺動静脈瘻は、先天的に発生する場合と、事故や外傷、感染を契機に後天的に発生する場合があります。前者の場合は、遺伝性出血性毛細血管拡張症(オスラー病)という病気の患者に起こることが多いとされています。

 症状は、病変部の血管構造が弱いために起こる出血(喀血(かっけつ)や血痰(けったん))と、フィルター機能がないために脳をはじめとするほかの臓器への感染症、塞栓症、そしてシャントによる息切れなどの低酸素症状がありますが、病変が小さくて無症状のまま健診で発見される人もいます。

 無症状の患者は診断が難しく、がんやそのほかの腫瘍(しゅよう)との鑑別のため、診断と治療を兼ねて手術がなされることもありましたが、現在では、CTやMRIを用いて術前に確実に診断がつくようになりました。

 治療の選択肢に内科的治療はなく、外科療法か経過観察をするかになります。手術の方法としては、以前は胸を開き病変部を切除していましたが、最近はカテーテルを用いて、病変部およびその流入血管をコイルなどによって詰めてしまう「肺動脈塞栓術」が主流となっています。

 無症状でも、一般に病変部へ流入する肺動脈の直径が3ミリを超える場合は、感染症や塞栓症を起こしやすく、塞栓術を選択した方がよいとされています。

 相談者は、10年前に偶然発見されており、その後も無症状で経過していること、またレントゲンで写りにくいということから、病変は小さいと考えられます。このため経過観察でもよいと思いますが、詳細な画像診断の上、主治医とよく相談されたらよいと思います。

 病変が単純レントゲン写真では描出しにくいようなので、CTやMRIを用いての経過観察をお勧めいたします。また、抜歯などの外科的処置を受ける際には、感染の予防として抗生物質を内服しておくことをお勧めいたします。

徳島新聞2010年5月30日号より転載

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