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【質問】 2歳男児の睾丸に腫れ

 2歳の男の子の母親です。半年ほど前に、右側の睾丸(こうがん)が腫れることがあり、鼠径(そけい)ヘルニア(脱腸)と診断されました。そのとき医師からは「治る場合もあるので、1年ほど様子を見てから、手術しましょう」と言われました。その後、1カ月ほどは腸が出たり、入ったりの状態でしたが、そのうちに全く出てこなくなりました。完治することはないという話も聞きますが、そのままにしておいていいんでしょうか。また手術の場合は、内視鏡手術も可能だそうですが、どういうものなのか教えてください。



【答え】 小児鼠径ヘルニア -手術は小児外科の専門医に-

徳島大学病院 小児外科・小児内視鏡外科科長 嵩原 裕夫

 小児の鼠径ヘルニアは、鼠径部(太ももの付け根)に腹膜鞘状(しょうじょう)突起と呼ばれるヘルニア嚢(のう)(袋)が先天的に残っていて、その中に小腸や大腸、女児の場合は卵巣、卵管なども飛び出して鼠径部が腫れてくる病気です。一方、ヘルニア嚢に腹水がたまるのは陰嚢水(すい)瘤(りゅう)という疾病で、両者の鑑別が難しいこともあります。

 鼠径ヘルニアは男児の右側に多く見られますが、左側あるいは両側に発症することもあります。女児でも決して少なくありません。

 主な症状は、鼠径部の腫れ、下腹部の牽引(けんいん)痛や不快感による不機嫌で、まれに便秘や夜尿症などが見られます。ヘルニアの経路には狭い場所があるため、飛び出した腸や卵巣が締め付けられて血流が悪くなってむくみが出て硬くなり、腹部に戻らなくなることがあります。これをヘルニア嵌頓(かんとん)といいますが、腸が壊死(えし)に陥って、腹膜炎を併発して命にかかわるケースもあるので緊急手術が必要です。

 1歳未満の陰嚢水瘤は、多くの場合は自然治癒が期待できます。一方、鼠径ヘルニアの場合は自然治癒の頻度は明らかにされておらず、自然に治ることを過度に期待して手術時期を遅らすことは良くありません。また、一見治癒したように見えたケースでも大人になってから再び発症する例もあります。

 原則として、嵌頓傾向のない場合は生後3カ月以降に予定手術としますが、少しでも戻りにくい場合は3カ月以内に手術しても問題はありません。鼠径ヘルニア手術は、簡単に考えられがちですが、ヘルニア嚢の剥離(はくり)操作で精管や精巣血管を損傷、将来的に男性不妊の原因になることもあるので小児外科専門医による治療が強く望まれます。

 従来、小児鼠径ヘルニアの手術は、下腹部を約2~3センチ切開して鼠径管を開放し、精管や精巣血管からヘルニア嚢を剥離し、ヘルニア嚢を高位結紮(けっさつ)する経鼠径管的ヘルニア根治術を行ってきました。

 当院小児外科では、1995年から当科で開発した腹腔鏡下鼠径ヘルニア手術(エルペック法)を行っています〈図参照〉。手術数も500件を超え、小児鼠径ヘルニアに対する内視鏡下手術としては国内で最もよく行われている方法になっています。へそから4.5ミリの内視鏡を入れ、その横から入れた2ミリの把持鉗子(はじかんし)という器具を使い鼠径部から刺した1.5ミリの特殊な糸付き穿刺針(せんししん)でヘルニア嚢を縫い合わせ閉じる方法です。

 エルペック法の利点は<1>傷が小さく、術後の痛みが少ない<2>傷跡が目立たない<3>精管や精巣血管の損傷の危険が少ない<4>反対側の鼠径ヘルニアの有無を確認でき、あれば両側とも1回の手術で閉鎖することができる-などが挙げられます。

 手術時間は両側ヘルニアで15~25分、入院日数は1~2日で、合併症や再発の頻度は低く、従来法と差はありません。

徳島新聞2005年5月29日号より転載

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