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【質問】 下だけ高い血圧に不安

 55歳の女性です。最近時々、朝起きたときにふらついたり、頭に痛みを感じたりするので、家庭用の血圧計で測ってみると上(収縮期血圧)が114ミリメートルHg(単位以下同)、下(拡張期血圧)が92でした。さらに5年ほど前には病院で不整脈や、血液の逆流による左心房弁膜症と言われました。弁膜症と血圧は関係あるのでしょうか。下だけが高いというのも高血圧なのでしょうか。また、日ごろどんなことに気をつければいいのでしょうか。



【答え】 拡張期高血圧 -肥満の解消と運動療法を-

富永医院 院長 富永 俊彦(那賀郡羽ノ浦町中庄)

 高血圧は脳卒中など心血管病の最も重要な危険因子なので、自分の血圧値を把握しておくことは大切です。成人の正常血圧は、収縮期血圧が130未満かつ拡張期血圧が85未満で、収縮期血圧が140以上または拡張期血圧が90以上を高血圧と定義しています(日本高血圧学会・高血圧治療ガイドライン)。

 この分類における血圧値は医療環境下(外来診療など)での基準値です。一方、家庭での血圧測定は、診察時に緊張して血圧が上がる白衣高血圧や、その反対の逆白衣高血圧(仮面高血圧)、早朝高血圧の診断、治療による不十分な降圧、あるいは過度の降圧を評価するのに有効です。しかし、家庭での血圧測定は外来診療などよりも一般に低値を示す傾向にあるため、125/80未満を正常血圧とし、135/85以上を高血圧の基準としています。正常血圧と高血圧の間は「正常高値血圧」として注意が必要とされます。

 家庭での血圧測定には、聴診法との較差が5以内であることが確認された上腕用装置を用い(病医院で確認してもらってください)、朝は▽起床後1時間以内▽排尿後▽座位1~2分の安静後▽降圧薬服用前▽朝食前に、晩は▽就寝前▽座位1~2分の安静後に測定することが推奨されています。指用、手首用の血圧計は簡単ですが不正確になることが多いので、上腕用を使用してください。ほぼ同じ条件下で、数日測定して判断することが重要です。

 拡張期血圧のみが高くても高血圧ですが、このような例は、末しょうの血管抵抗が増加しているが、大血管の弾力性がまだ保たれている病態で起こります。肥満、運動不足、大酒飲み、喫煙などの60歳までの人に見受けられることがあります。この場合は生活習慣の改善が最も大切で、肥満の解消と運動療法が最善の対処法です。若年者の二次性高血圧症でも拡張期血圧の上昇が目立つ場合もあり、この際には原因疾患の精査が必要です。

 質問の女性の血圧値は114/92であり、拡張期血圧が高値です。前述したように適切な装置と測定条件が間違っておらず、常に家庭での拡張期血圧が85以上なら高血圧と考えなければなりません。

 また、脈圧(収縮期と拡張期の血圧の差)が少ないのが気掛かりです。60歳を過ぎて脈圧が多い場合は動脈硬化の進展に注意しなければなりませんが、脈圧が少ない場合は心不全、脱水、不整脈発作時などの病態を考慮しないといけません。いずれの場合も1回の測定だけで判断しないことが大切です。家庭用血圧計では収縮期血圧が低く、拡張期血圧が高く表示される傾向にあるので、聴診法で確認しておいてください。

 血圧に関係する弁膜症は、通常は大動脈弁の弁膜症です。左心房の弁膜症で逆流があるとのことなので、左心房と左心室の間にある僧帽弁の閉鎖不全症のことと思われます。でも、僧帽弁膜症は通常血圧にほとんど影響がなく、問題は僧帽弁逆流の程度です。聴診ではっきりとした心雑音があり、心拡大と不整脈が持続しているのであれば、医学的管理が必要です。しかし、最近の心エコー装置ではごく微量の逆流も分かるため、臨床上全く問題とならないものまで過剰診断されている恐れもあります。

 訴えられている自覚症状は血圧だけに関連したものでなく、睡眠不足や肩凝りなどでも起こる症状です。気をつけるべき生活習慣は<1>食塩制限<2>適正な体重の維持<3>毎日30分以上の有酸素運動<4>野菜・果物の積極的摂取<5>アルコール制限<6>禁煙-です。

 一度、循環器専門医を受診されて、血圧計はおかしくないか、医学的管理が必要な弁膜症や高血圧なのかを確かめられることをお勧めします。

徳島新聞2005年3月13日号より転載

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