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【質問】 尿に寒天のような泡が浮く

 80歳の女性です。5年くらい前から、夜だけ尿を尿器に取っていますが、尿の上に寒天のような泡がいっぱい浮いています。今までの尿検査で、潜血反応が出たこともありましたが、内科では心配ないといわれました。でも、気になって仕方ありません。テレビの健康番組を見て、「ネフローゼ」ではないかと思いました。内科でなく、泌尿器科へ行くべきでしょうか。どんな治療をすればいいですか。尿の泡のことや食事のことなどを詳しく教えてください。



【答え】 ネフローゼ症候群

-薬物治療と低蛋白、減塩の食事を-


伊月病院 山野 利尚(徳島市徳島町2丁目)

 尿の泡立ち・ネフローゼ(一般にネフローゼ症候群)や食事のことなどについて答えます。日ごろの健康状態についてよく観察し、この状態を異常でないかと疑問を持ったことは、とても良いことです。

 まず結論から言うと、尿に泡立ちが見られても、通常の尿検査で異常がなければ心配はいりません。ただし、尿の泡立ちが続くようなら、受診を繰り返してください。受診は、内科、腎臓内科、血尿があれば泌尿器科になります。

 尿の泡立ちは、ネフローゼ症候群のように尿に大量の蛋白(たんぱく)が含まれているときに見られます。ネフローゼ症候群はある日突然に発症したかのように見えますが、原因となった病気は、その前に起こっているので、医師は尿の泡に気付いた時期を聞き、いつからこの病気が始まっていたかを判断する材料にします。

 健康な人の尿には、微量ながら複数の蛋白質、酵素、ホルモン、ビタミン、ミネラルなどが含まれています。病気では、これらの物質の増減に加えて、糖(糖尿)、ビリルビン(黄疸(おうだん)尿)、脂肪(乳び尿)なども検出されます。泡は、尿に溶け込んでいる物質(溶質)の高い濃度のときに生じるので、健康な人でも、水分補給が少ないときや、早朝尿など尿が濃縮しているときには、泡立ちが一時的に見られることがあります。

 ネフローゼ症候群は、尿中に蛋白が高濃度に含まれているため、常に尿の泡立ちが見られます。尿中の蛋白質は、アルブミンが主体です。例えば、食用の卵の白身はアルブミンですから、この白身だけを取り出して少し水で薄めてかき混ぜると、大きな泡が立ちます。これと同じです。糖尿病でも、尿糖が高濃度のときには泡立ちが見られることがあります。しかし、糖尿病で、いつも尿に泡立ちが見られる場合は、腎臓病の合併症がある可能性があります。

 質問者は、尿検査の潜血反応では、陽性ながら蛋白や糖は陰性のようなので心配ありません。少し気になるのは、通常の尿検査は、試験紙を使っているので、多発性骨髄腫のベンスジョーンズ蛋白を見落とすことがあることです。

 ネフローゼ症候群について説明しておきます。ネフローゼ症候群は、大量の蛋白尿、浮腫(むくみ)、低アルブミン血症と、しばしば高コレステロール血症を伴う症候群です。診断基準は、尿蛋白量が1日3.5グラム以上を持続して、血清中の総蛋白量が1デシリットルごとに6.0グラム以下、あるいはアルブミン濃度が同3.0グラム以下の低蛋白血症が見られることが必要条件で、このために生じる浮腫や高脂血症(総コレステロールが同250ミリグラム以上)などが付帯条件になっています。浮腫は、足から始まり全身に及び、胸水や腹水が見られることもあります。これらの診断基準を満たせば、その原疾患が何であれ、ネフローゼ症候群と診断します。

 ネフローゼ症候群の原疾患は多彩です。いずれも腎臓の糸球体病変によるものですが、腎臓そのものの病気(原発性)のほかに、糖尿病、膠原病(こうげんびょう)、アミロイドーシス、薬剤性などの続発性があります。もしも80歳になって急にネフローゼ症候群になったときには、まず、がんなどの悪性腫瘍(しゅよう)を疑います。

 ネフローゼ症候群の治療は、薬物治療が原則です。食事は、低蛋白・正常エネルギー、減塩が基本です。食事蛋白量は、1日50~40グラム、1800カロリー、食塩7~3グラムが目安です。古くは、高蛋白食が勧められていましたが、これはかえって腎臓機能を低下させます。保温や十分な睡眠など休養も大切です。

徳島新聞2003年10月5日号より転載

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