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【質問】 現実感喪失の状態が続く

 38歳の女性です。4年前、長女を出産して間もなく、精神的に不安定な状態になり「産後うつ病」と診断されました。以後、離婚など身辺でいろいろなことがあり、今も1日1回薬を服用していますが、いわゆる「離人症状」が取れず、苦しい毎日です。体のだるさや頭痛はないのですが、現実感喪失の状態がずっと続いています。離人症状に効果的な薬はあまりないと聞きましたが、どうすれば病気とうまく付き合っていけるのか教えてください。



【答え】 抑うつ症状 -脳内エネルギー節約を-

はしもと和クリニック 橋本 弘子(徳島市八万町内浜)

 最初は「産後のうつ病」と言われたとのことですが、少し説明しておきましょう。これはうつ病というより、「うつ病の症状があるうつの状態」と考えてもらいたいと思います。

 本当のうつ病との大きな違いは妊娠・出産を引き金に、心身両面の疲労の結果として起こってくるという点です。妊娠中は当然身体的にも大きな負担がかかっています。心理面でも初めて誕生する生命に対する期待と不安が常にあります。その期間が約1年も続きます。

 そして、いよいよ出産するときには、胎盤がはがれ落ちると同時にホルモン状態が大きく変化します。これは更年期のホルモン不安定など、全く比較にならないほどの大変化です。また、同時に新しい生命を手にし、希望に胸を膨らませながらも、同時に心理的葛藤(かっとう)、苦労、悩みが急に出現します。

 このようにあれこれ考えたり、いろいろなストレスを受けることによって、脳内のエネルギーが急激に減少して、うつ病のような症状が出てきます。この状態が「抑うつ症状」と呼ばれるものです。

 これを一般的に「マタニティーブルー」と言いますが、言い換えると「心理的疲労」です。フルマラソンを走ったり、ヒマラヤに登山をしたりして体が動けなくなるのが「身体疲労」です。そして、心理面に同じような現象が起こることを、こう表現します。治療はいわゆるうつ病と同じです。

 さて、質問にある離人症状についてですが、うつ病あるいはうつ状態の一つの症状として、比較的よくみられるものです。ひと言で言うと、何をしても現実感がない(わかない)というものです。

 対策としては、脳内のエネルギーを節約して、少しずつ増やしていくよう工夫をするといいと思います。まず、生活面、行動面では、あまりエネルギーを無駄遣いしないことが大切です。

 コツを一つ教えておきます。考えても、考えなくても同じ結果が見込まれることは、くよくよ考えない、ということでしょうか。当たり前のことですが、なかなか難しいことなので、心に留めておいてください。

 次に薬物療法ですが、リラックス、寝るということがきちんとできるように自分によく合った薬を専門医に処方してもらいましょう。そして必ず面談をした上で、その時々の状態に合わせて、細かく増減してもらってください。抗不安剤、入眠導入剤、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)、SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)、その他の抗うつ剤など、最近はよい薬がたくさんあります。専門医とよく相談してみてください。

徳島新聞2003年1月5日号より転載

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