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【質問】 薬に頼らず眠るには・・・

 63歳の女性です。不眠症で悩んでいます。2年ほど前から安定剤を2錠服用しています。3週間ほど前、目が見えにくくなり、脳外科でMRIの検査をしたところ、「眼神経に異常があるのではないか」と言われました。原因が安定剤かもしれないということで服用を止めましたが、2時間ごとに目が覚めてしまいます。昼は眠くて、仕事も休んでいます。何とか、薬に頼らずに眠れる方法を教えてください。



【答え】 不眠症 -生活リズムの見直しから-

あいざとパティオクリニック 院長 石村 栄作(徳島市蔵本町2丁目)

 現代人の約5人に1人が睡眠不足の状態という報告があるように、眠れないのは、想像以上に苦しいものです。

 「不眠症」には、布団に入ってもなかなか寝つけない「入眠障害」、夜中にしばしば目が覚める「中途覚醒(かくせい)」、朝早く目が覚めてしまう「早期覚醒」の3つのタイプがあります。後の2つのタイプは高齢者に高い頻度でみられ、60歳以上になると若い人の倍近くになるといわれています。高齢者には「不眠症」が多く、いわゆる睡眠薬の処方も高率であるという調査結果が報告されています。

 「不眠症」の対策は原因を5つに分けて考えるといいと思います。1つ目は、心理的な原因(仕事、家庭、健康上の悩み)によるものです。多くの場合その原因が解決すれば治りますが、不眠に対する不安やこだわりがあると、不眠が慢性化して「神経質性不眠」という状態に陥ります。質問の女性のように服薬を続けることの心配と夜眠れない苦しみとの葛藤(かっとう)から、不眠が長引く場合があります。

 2つ目は、精神医学的原因によるものです。うつ病などの気分障害、精神分裂病、痴呆(ちほう)症、アルコール依存症などです。前駆症状としての「不眠症」だけを治すことはかえって有害なことがあるので、適切な診断と治療のため、なるべく早く専門医に受診される必要があります。

 3つ目は、生理的原因によるものです。質問の女性に限らず多くの人に参考になると考えますが、今までの生活習慣(食事、排泄(はいせつ)、入浴、運動、嗜好(しこう)品など)を見直して、毎日の就寝・起床時刻をなるべく一定に保つことや、就寝前にテレビを遅くまで見るなどの精神的な刺激を避けること、寝室の環境を快適に整え寝具にも気を配ることが大切です。高齢の人はなるべく自分の生活リズムにあったスケジュールで寝起きすれば、十分な睡眠がとれてすっきり目覚めることができます。いずれにしても、基本的には「眠ろう、眠ろう」と焦らないこと。「眠らなくてもいい」と自然に身を任せる心構えや工夫が大切になります。

 4つ目は、身体的原因によるものです。気管支喘息(ぜんそく)や心不全による呼吸困難、糖尿病や前立腺肥大症による夜間頻尿、その他慢性的な痛みなども原因になります。

 5つ目は、薬理学的原因によるものです。常用している薬物の副作用などのほか、コーヒーや緑茶に含まれるカフェイン、タバコに含まれるニコチン、アルコールなどの取り過ぎが原因になります。これは3つ目の原因とも重なりますが、日常の生活習慣を見直すことが大切です。

 質問の女性は、安定剤を服用されていたとのことです。それが睡眠剤であったかどうかは分かりませんが、2年間常用して一定の睡眠リズムが保たれていたものが、急に服薬を中断したため、リズムの変調を来たしたもので、「不眠症」が悪化したのではないと思われます。精神安定剤や睡眠剤を長く続けているとき、服薬を中止する場合には、かなりの注意が必要です。専門医の指導を受けられることを勧めます。

 最後に、薬に頼らない特殊な治療法として、認知療法(睡眠に関する誤った信念や態度を変えていくことを目的としている)や自律訓練法や行動療法などがありますが、それぞれの専門医に相談してください。

徳島新聞2002年5月19日号より転載

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