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【質問】 食後、胃が痛み下痢催す

 50歳の女性です。25年ほど前から食後の急性胃腸炎に悩まされています。食べ過ぎた後や体が不調のとき、食欲がないのに無理して食べた後など、半時間ぐらいたつと胃が少しずつ痛み始めます。続いて腸が激しく痛み、下痢便を催すようになるまでの30~40分間、苦しくて気が遠くなるほどの痛みを感じます。二、三度、トイレで下痢をした後は、痛みも消え、普段と変わりません。症状は2~3カ月に1回程度起こるようです。胃の検査をしましたが、ポリープがある程度で特別な指摘はなく、腸の過敏性を抑える薬をいただく程度です。快適な食生活を送るにはどのようにすればいいのでしょうか。



【答え】 過敏性腸症候群と機能性ディスペプシア -ストレスを減らす-

徳島県立海部病院 内科 柴 昌子

 まず腹痛の原因を調べることが大切です。みぞおちが痛む原因として胃、胆(たん)のう、胆管、膵(すい)臓、大腸、小腸などの病気が考えられます。胃内視鏡検査ではポリープぐらいで、痛みの原因はあまり認められないことや、腹痛の経過が25年の長期間に断続的に起こっていることから、機能的な異常や精神的ストレスが誘因となることが多い、過敏性腸症候群もしくは機能性デイスペプシアが最も考えられます。

 ただ念のために、他に大腸検査、血液検査などで、潰瘍(かいよう)性大腸炎、クローン病、大腸癌(がん)などの大腸の炎症性腸疾患、腫瘍(しゅよう)性疾患、膵炎などの病変を否定する必要があります。

 過敏性腸症候群は、緊張やストレスによる腹痛と便通異常を起こす症候群で、便通異常と腹部不快感が長期間続くことを条件としています。症状により、下痢型、便秘型、下痢便秘交代型に分けられ、下痢型は男性に多く、便秘型は女性に多いとされています。

 症状はさらに、むかつき、嘔(おう)吐、上腹部の疼(とう)痛、不快感などの上部消化管症状や、のどの渇き、動悸(き)などの自律神経症状が認められることがあります。

 機能性デイスペプシアは「non-ulcer dyspepsia」の訳で、日本語訳は統一されていません。胸やけ、胃のもたれ、吐き気、腹痛などの強い上腹部痛症状を訴えますが、これといった疾患が見当たらず、慢性的に症状が続く症候群名です。神経性胃炎と診断されている大部分がこの疾患に当たるといわれています。

 機能性デイスペプシアも、症状により胃食道逆流型、運動不全型、潰瘍症状型、非特異型の四タイプがあります。あなたのように腹痛を伴うものは、潰瘍症状型に分類され、胃酸分泌が多くなることが原因とされています。

 過敏性腸症候群も機能性デイスペプシアもともに、ストレスに対する腸管平滑筋の機能異常によって消化管症状が起こるものと説明されています。決してその症状が進んで致死的な状態に至ることはありえないことを患者さんにまず、認識していただくことが大切です。

 治療は、ストレスをできるだけ減らして、社会生活に支障がないように症状をコントロールすることにあります。

 具体的には、たばこ、お酒は制限する。特に夜九時以降の飲酒は控える。睡眠を十分取り、不規則な食生活をなくす。脂肪分の多いもの、甘いもの、辛いものは少量に抑えることを心がける。また、食事に時間をかけ、食後ゆったり過ごしたり、定期的な運動を行ったりと、リラックスする習慣をつけることもお勧めします。

 さらに、下痢型過敏性腸症候群では、香辛料、冷たいもの、乳製品を控え、便秘型過敏性腸症候群では、食物繊維や水分の摂取を心がけることも大切です。空気の嚥下(えんげ)も過敏性腸症候群には好ましくないため、お茶漬けの食習慣、ストローの使用、チューインガム、たばこの常用をやめることも役に立つでしょう。

 治療薬ですが、過敏性腸症候群はどのタイプにも消化管の運動を改善する薬を使い、それでも効果がない場合はうつ状態や不安を抑える薬を併用します。下痢や便秘の症状を取る薬も使用します。

 また機能性デイスペプシアは、症状のタイプに応じた対策が考えられます。消化管運動を調節する薬や胃酸を押さえる薬の内服が有効なことがあります。腹痛を起こすタイプなら特に胃酸を抑える薬をお奨めします。

 いずれの疾患も内科的治療で改善しない場合は、心療内科的な治療が効果を発揮することもありますので、症状の治療経過については担当医師とよく相談してください。

徳島新聞2002年1月13日号より転載

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