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【質問】 治らない頭痛や吐き気

 59歳の男性です。昨夏、職場から自転車で移動中に頭痛と吐き気、めまいを催し、受診しました。採血後「脳きょ血症と胃が考えられるが、いずれも一過性のものと思われる」との診断で、薬をもらいました。しかし、その後も治まらないため、胃カメラや、頭や首のレントゲン、MRI(核磁気共鳴診断装置)検査をしましたが異常なしでした。「精神的なものでないか」と、脳外科医から、筋肉と気分を和らげる薬をいただきました。確かに服用すると症状は軽くなります。でも飲むのをやめると、また起こり、一進一退が数カ月も続いています。今のまま薬を飲み続けたらいいのでしょうか、それとも精密検査の必要があるのでしょうか。



【答え】 筋収縮性頭痛 -脳血管撮影などの検査を-

徳島市民病院 副院長 日下 和昌

 あなたは頭痛と吐き気、めまいを訴えられています。頭痛には生命の危機につながるものとそうでないものがあります。前者の代表には「くも膜下出血」「脳腫瘍(しゅよう)」「脳出血」「劇症の脳炎、髄膜炎」などがあります。最も怖いのは、くも膜下出血で、死亡率が高く、突然頭をハンマーで殴られたような頭痛が生じます。

 ここで大切なことは、頭痛がピークに達するまでの時間です。痛み始めて20~30分もたってピークに達するような頭痛はくも膜下出血ではありません。また、脳腫瘍などで頭がい内の圧力が高くなって起こる頭痛は、朝、目が覚めて起き上がらない寝床の中にいるときが一番痛いものです。起き上がって活動を始めると、頭痛が和らいできます。脳出血では、半身のまひや意識障害など、頭痛以外の神経症状が起こります。脳炎や髄膜炎では熱が出ます。

 一方、生死にかかわりのない頭痛には「片頭痛(血管性頭痛)」「筋収縮性頭痛」「三叉(さんさ)神経痛」「心因性頭痛」などがあります。片頭痛の患者さんは、長期間の痛みに悩まされているので、痛みが始まっても「いつもの頭痛」と思いがちですが、本当に「いつもの頭痛」と違っていないかどうかが重要です。違っている場合には精密検査が必要です。

 疲れやストレスがたまったとき、前頭部や後頭部に締め付けられるような痛みを生じ、首や肩が凝ったように感じるのは筋収縮性頭痛です。三叉神経痛の痛みは必ず発作性で、物を食べたり、しゃべったりすると顔や歯に痛みが生じ、30秒以内に治まります。2~3分以上も続く場合は、腫瘍などで三叉神経が圧迫されて痛んでいる可能性があるため、精密検査が必要です。

 100人の患者さんが頭痛を訴えて来院したとすると、90人は筋収縮性や心因性で、9人が片頭痛、1人が生命が危ぶまれる頭痛という比率です。

 頭痛にともなう吐き気は、命にかかわる頭痛にも、そうでない片頭痛でもみられます。

 次に、めまいを訴える場合、「立ちくらみ」や「ふらつき」なのか、周囲がくるくる回るような「回転性のめまい」なのかを区別することが大切です。若い人には、急に立ち上がると血圧が低下し、立ちくらみがする「起立性失調症」が多くみられますが、命に別条はありません。しかし高齢者の場合は、脳幹や小脳に血液を送っている椎(つい)骨動脈や脳底動脈の血流不全で立ちくらみやふらつきが起こります。放置しておくと脳幹や小脳に梗塞(こうそく)を生じ、命を落とす可能性もあります。

 回転性めまいには悪性と良性があります。命を落とすような悪性のものには、脳卒中(小脳出血、脳幹梗塞)や脳腫瘍が原因として考えられます。良性では発作性頭位変換性めまいやメニエル病などがあります。

 以上、お話しした基礎知識を踏まえて、あなたの場合を考えてみますと、急に頭痛、吐き気、めまいが起きたとのことから、まず小脳出血やくも膜下出血の可能性を疑う必要があります。しかし、MRI検査で異常がないことから、そうした病気や脳腫瘍などではないと思います。筋肉と気分を和らげる薬を服用すると症状が軽くなることから、筋収縮性頭痛の可能性があると思います。さらに年齢から、椎骨、脳底動脈系の動脈りゅう、動・静脈奇形などの可能性も否定できません。

 症状が長く続くようなら、脳血管撮影などの精密検査を受けた方がよいでしょう。その結果、血流障害による症状なら、主治医と相談して、抗血小板剤や脳血流改善剤などを服用されてはいかがでしょうか。また、高血圧や高脂血症、糖尿病などの合併症があれば、併せて治療する必要があると思われます。

徳島新聞2000年3月26日号より転載

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