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【質問】 乳がん検診で小さな腫瘍

 2児を子育て中の30代半ばの女性です。乳がんの定期検診の際、超音波検査で両方の乳房にしこり(直径5mmぐらい)が見つかり、すぐにエックス線検査と細胞診を受けました。エックス線では、より鮮明に腫瘍(しゅよう)が確認できましたが、細胞診では良性でした。しかし先生は、細胞診でも悪性腫瘍が発見できない場合がまれにあり、形がいびつなこともあって摘出したほうがいいとのことでした。日帰り手術だそうですが、両方の乳房に傷が残るとあってなかなか踏み切れません。先生は、万一腫瘍が悪性で、3カ月たって大きさが倍になっても命に別条はないといいます。腫瘍が悪性である可能性、また、将来悪性化する可能性はどの程度あるのでしょうか。



【答え】 乳房のしこり -摘出術で詳細な検査を-

徳島市民病院 外科医師 田中 直臣

乳房温存手術例 右乳頭の右上方にできた2センチの腫瘍を円形切除。欠損部に皮下脂肪を充填し、乳房を形成した
 双方の乳房に5mm大のしこりが見つかり、ご心配だと思います。しかし、考えようによっては触っても分からないような小さなしこりがたまたま見つかり、不幸中の幸いかもしれません。

 細胞診では良性のようですが、小さなしこりだと針で刺せなかったか、刺せても細胞が採れていなかったことが考えられますし、処理の仕方などの技術面から「検査したうえでは悪性細胞がみられなかった」と理解してください。100%悪性でないとは言い切れません。

 小さなしこりでは、いろいろ検査をして良性か悪性か不明な場合、経過観察でしこりの変化をみるのも一つの診断方法で、有用な場合もあります。乳癌(にゅうがん)の場合、大きさ(体積)が2倍になる期間は約3カ月ですが、しこりが小さいうちは心配ないといわれています。

 あなたの場合、エックス線検査での鮮明な腫瘍、しかも形がいびつであることから悪性の可能性がかなりの確率であります。さらに両側とも同じ所見であれば両側とも悪性の可能性もあります。

 積極的に検査を受けられていることから、担当医と十分ご相談のうえ、摘出術による詳細な組織学的検査をお勧めします。万一、悪性であっても、その程度の大きさなら、それで治療が終了することもあります。

 術後の傷を心配されていますが、最近ではどこの施設でも美容的に、極力目立たないような摘出術が試みられています。とはいうものの女性にとって大切な乳房だけに、摘出は悪性の疑いのある人に限るべきです。

 最近、乳房造影、超音波(エコー)などの画像診断装置の性能向上により、切らずに診断できるようになりつつありますが、確定診断には組織学的検査が必要です。乳腺(にゅうせん)腫瘍の場合、特殊な例を除いて良性が悪性化することはありません。

 癌の治療は早期発見、早期治療が原則です。特に乳癌の場合、早期発見にて小範囲の乳房切除、いわゆる乳房温存手術により、患者の術後の経過を悪くすることなく、QOL(生活の質)を向上する方向に進んでいます。

 乳癌検診は視触診で行われていますが、成績の向上がみられないのが現状です。ご相談のような触っても分からないような小さなしこり、また、しこりがなくても悪性の可能性がある微細な石灰沈着の発見のため、日本乳癌検診学会などでは視触診に乳房撮影(マンモグラフィー)を併用した検診を奨励しており、現在その準備が進みつつあります。

徳島新聞2001年10月14日号より転載

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