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【質問】 胆石で肩凝りや背中に圧迫感

 76歳の男性です。2年前に胃がんのため、胃の上部3分の1の摘出手術を受け、4週に一度の通院をしています。現在は食生活もほとんど普通食です。手術後1年で、内視鏡、CT、エコー検査をしたところ、胆石ができているといわれ、そのころから右肩の凝りや、背中に圧迫感があり、月に1~2度、腹痛や下痢があります。病院で胆石溶解剤の投与を受け、薬局では「うらじろがし」を購入し、毎日服用していますが、あまり改善されません。主治医は「発作が起きれば手術をして取りましょう」といってくれますが、最近、胆石溶解剤のいい薬ができて、効果を上げていると聞きます。どんなものなのでしょうか。



【答え】 胃がん手術後の胆石症 -改善なければ摘出術を-

中瀬病院 院長 小島 聖(徳島市応神町古川)

 ご相談の患者さんは、2年前に胃がんの手術療法を受けられ、現在は健康な日常生活を送っておられるようです。

 一般に医師ががん手術後の患者さんの経過を観察するときは、常にがんの局所再発、転移の有無について検索します。手術後1年の内視鏡、CT、エコー検査では、胃がんの局所再発や胃がんが転移しやすい肝臓などへの病変も見られないようです。胃がんに関しては治癒状態であり、安心されていいでしょう。しかし、その時の検査で、今度は胆石を指摘され、心配事が増えた思いがひしひしと伝わってきます。

 ここで、胆石症についてお話をします。胆石とは、胆道系にできた固形物であり、胆石が存在する場所により、「胆のう結石症」「総胆管結石症」「肝内結石症」に分けられます。患者さんの症状からは胆のう結石症が考えられますので、これについて話を進めます。

 胆のう結石症の症状としては、上腹部不定症状、肩凝り、吐き気といった「前駆症状」と、みぞおちから右ろっ骨下の激痛や黄疸(おうだん)、発熱などの「発作時症状」に分けられます。右肩の凝りや背中の圧迫感は前駆症状と思われます。しかし、月に1~2度の腹痛や下痢の症状は胆石の症状ではありません。この症状は「胃切除後症候群」といいますが、食事療法や整腸剤の内服薬で治療します。

 胆石症の治療法には、<1>経口胆石溶解療法(胆石を溶かす薬を飲む)<2>体外衝撃波胆石破砕療法(衝撃波で胆石を砕く)<3>胆のう摘出術-があります。胆石の種類、個数、症状の有無などを総合的に判断して、治療法を選択します。

 胆石の内訳は、コレステロール胆石が70%、色素胆石が30%の割合ですが、経口胆石溶解療法はコレステロール結石の場合に適応となります。治療期間は6カ月から3年間の服薬を必要とし、胆石の消失率は一般に10%~30%といわれています。

 さて、「最近、胆石溶解剤のいい薬ができて、効果を上げているのでは」というご質問ですが、残念ながらそのような事実はありません。また、古くから民間薬として使われていた「うらじろがし」は、尿路結石の治療薬ですので、購入された薬局で詳しくご相談ください。

 最近の胆石治療の著しい進歩は、「腹腔鏡下(ふっくうきょうか)胆のう摘出術」が考案されたことです。この手術方法は、以前の開腹下胆のう摘出術とは異なり、腹部に大きな傷あとが残らないこと、手術後の腸閉そくが起こりにくいこと、また開腹手術に比べて手術後の痛みが少なく、さらに入院期間も短いなどの利点があり、急速に普及しています。

 しかし、この患者さんの場合は、2年前に胃がんの開腹手術を受けています。通常、胃がんの手術は胃切除と所属リンパ節郭清(かくせい=取り除く)を行っているので、総胆管や胆のうの癒着があることが十分に考えられ、もし手術療法となった場合には開腹下胆のう摘出術を考慮しなければならないと思われます。

 胆石の症状が前駆症状であること、胆石溶解療法を受けて1年であること、また2年前に胃がんの開腹手術を受けていることなどの理由で、主治医の意見のように、引き続いて胆石溶解剤を服用し、胆石発作の引き金となる暴飲、暴食、過労を避けて、経時的に検査を受けながら経過観察を続けてください。それでも胆石の発作症状が現れ、絶対的手術適応となった場合に、手術療法を選択すればよいと思われます。

徳島新聞1999年12月26日号より転載

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