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徳島県小児科医会 日浦恭一

 細菌性食中毒の起こり方には3種類あります。1つは細菌によって汚染された食物で腸管感染が起こるものです。サルモネラ菌やカンピロバクター菌がこれにあたります。第2は食物に付着した細菌が増殖して産生した毒素を摂取して発病する毒素型と呼ばれるものです。これにはブドウ球菌やボツリヌス菌が含まれます。第3は腸管内で増殖した細菌が産生した毒素によって発病する生体内毒素型と呼ばれるもので病原大腸菌がこれにあたります。

 病原大腸菌はベロ毒素を産生する細菌で重篤な食中毒症状を起こす病原菌です。1996年に堺市で大流行を起こしたことは記憶に新しいものですが、病原大腸菌の感染は最近でも年間3,000件から4,000件程度の発生届出があり、決して過去の病気ではありません。

 病原大腸菌による食中毒の発生は5月から9月の夏季に多く見られます。大腸菌は増殖速度が速く、わずかの細菌の付着でも食中毒を発生することが知られています。

 病原大腸菌の中でもベロ毒素を発生するものが腸管出血性大腸菌で、主要な血清型はO-157です。わが国のウシは約20%が病原大腸菌を持っており、これに汚染された牛肉などの生食によって食中毒が発生します。さらに汚染された野菜や果物などの摂取や感染者の糞便処理時にヒトからヒトへの感染も起こる可能性があり注意が要ります。

徳島新聞2010年8月18日掲載

徳島県小児科医会 日浦恭一

 乳幼児の下痢は多くの原因で発生することが知られています。最も多いのはウィルスや細菌による感染性胃腸炎ですが、その他に感冒や中耳炎、尿路感染症などの時、さらにアレルギーやストレスなど胃腸炎以外の状態でも下痢が見られることがあります。乳幼児の腸管のぜん動運動は様々な理由で亢進しやすく、また消化吸収力が弱いために下痢が起こりやすいのです。

 感染性胃腸炎の原因で最も多いのはウィルスです。ロタ、ノロ、アデノ、エンテロウィルスなどが代表的な原因ウィルスです。これらのウィルス感染は上部消化管から始まり次第に小腸に広がり、大腸粘膜まで病変が及ぶことは少ないものです。症状は悪心や嘔吐で始まり次第に下痢になります。

 これに対して細菌感染による消化管の異常は大腸粘膜を侵します。その炎症が強いときには粘血便が現れます。

 乳幼児は年長児に比べて腸管粘膜局所の免疫が弱いことや病原菌が粘膜に付着しやすいこと、消化酵素による殺菌能が弱いことなどから細菌感染を起こしやすいと言われます。

 とくに夏場は食物に付着した細菌が増殖しやすく食中毒の発生が増加します。暑さのために睡眠や栄養状態が影響を受けて、体力が低下しやすくなります。栄養状態や睡眠環境を整えて体力や抵抗力の低下を防ぎ、食中毒の発生に注意したいものです。

徳島新聞2010年8月11日掲載

徳島県小児科医会 日浦恭一

 夏かぜの原因ウィルスの中で多いのはアデノウィルスとエンテロウィルスの2つです。エンテロウィルスにはコクサッキー、エコー、エンテロと3つの名前で呼ばれるウィルスが含まれていてヘルパンギーナの他にポリオ、手足口病、ウィルス性発疹症、無菌性髄膜炎などを引き起こします。このウィルスは血清型によって90種類ほどが区別されていて、血清型によって起こる病気が決まります。

 エンテロウィルスに感染しても必ずしも典型的な症状が見られるわけではありません。症状のない不顕性感染に終わるものや単なる発熱だけで終わるような場合もあります。このような不顕性感染や発熱のみの患者さんからもウィルスは排泄されますから他の人への感染源になります。

 ヘルパンギーナは夏かぜの代表です。潜伏期間は3~5日で、咽頭の発赤や小水泡が出来て咽頭痛と高熱を特徴とします。高熱は2~4日続き、のどの痛みのために水分や食事の摂取が悪くなります。乳幼児では脱水症を起こすことや高熱にともなう熱性けいれんを来すことがありますから注意が必要です。

 ヘルパンギーナは一般に軽症で自然に治癒する疾患です。これに直接効果のある薬剤はありません。またアデノウィルスのような迅速診断の検査キットもありません。元気があって食欲も機嫌もよければ無治療で様子を見ることもできる病気です。

徳島新聞2010年7月28日掲載

徳島県小児科医会 日浦恭一

 夏かぜの代表的な疾患であるプール熱はアデノウィルスを原因とする感染症です。プール熱は発熱、咽頭炎、結膜炎を特徴として咽頭結膜熱と呼ばれます。ウィルスで汚染された水から伝染することからプール熱とも呼ばれます。

 アデノウィルスによって引き起こされる疾患には咽頭炎、結膜炎、肺炎、胃腸炎、膀胱炎、脳炎などがあり、全身の臓器に及びます。アデノウィルスは血清型によって約50種類に分類されており、その型によって発生する疾患が異なります。

 アデノウィルスは飛沫、接触、糞口感染を起こします。侵入経路は鼻、のど、結膜などの粘膜から直接侵入します。したがってプールの水がウィルスで汚染されると、水を介して広く伝染しますから大流行になることがあります。また消化管からは長くウィルスが排出されますから流行が長引く原因になります。

 アデノウィルスを原因とする疾患の中で咽頭炎や扁桃炎は細菌感染との区別が大切です。白血球数やCRPなどの血液検査ではアデノウィルスと細菌感染の区別は出来ません。

 アデノウィルスの迅速検査キットが簡便に使用できますから鑑別には便利です。アデノウィルスによる咽頭炎や扁桃炎の発熱は長く続くことがあります。きちんと鑑別をすることで不必要な抗菌剤の使用を減らすことができます。

徳島新聞2010年7月21日掲載

徳島県小児科医会 日浦恭一

 初夏に流行するウィルス疾患の多くは発熱を特徴として夏かぜと呼ばれます。体力のない子どもが高熱を出すと大変心配になりますが、夏かぜは脱水症や二次的な細菌感染症を起こさなければほとんどが自然に治ります。

 多くのウィルス疾患には対症療法以外の特別な治療法はありません。対症療法としては安静、水分補給、解熱剤の投与などで経過観察する訳ですが、高熱を来す疾患の中には重篤な細菌感染症が隠れていることがあります。細菌感染症には出来るだけ早期に適切な抗菌剤療法を行う必要がありますから、鑑別診断が大切となります。

 夏かぜを起こす代表的なウィルスにはエンテロウィルスとアデノウィルスの2つがあります。エンテロウィルスはポリオやヘルパンギーナ、手足口病の原因ウィルスです。アデノウィルスは咽頭炎、扁桃炎、咽頭結膜熱(プール熱)、胃腸炎や出血性膀胱炎などの原因となります。

 いずれのウィルスも感染して発病すると高熱や咽頭痛が見られます。さらに一度感染すると腸管からウィルスが長く排出されて感染源になります。したがって集団生活や院内感染の原因としては大変重要なウィルスです。

 日本の夏は高温多湿で食欲が落ち睡眠が浅くなり疲れが取れにくくなります。寝冷えによる抵抗力の低下もあります。夏かぜウィルスに感染しないように注意が必要です。

徳島新聞2010年7月14日掲載

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