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徳島県小児科医会 日浦恭一

 食物アレルギーとは特定の原因食物を摂取した後に、生体にとって不利な症状が出現することを言います。不利な症状は皮膚や粘膜、呼吸器、消化器などに現れるもので、アナフィラキシーもそのひとつです。

 わが国の食物アレルギーの頻度は国民全体では約2%と言われますが、乳児では高く5~10%あるとされます。

 食物アレルギーの多くは即時型と呼ばれるもので、食物摂取後すみやかに症状が表れるもので蕁麻疹やアナフィラキシーなどがこれに当ります。食物アレルギーが関与するアトピー性皮膚炎もありますが、アトピー性皮膚炎の原因すべてが食物ではありません。

 免疫は元々生体に侵入した異物を自分の蛋白との違いを識別して排除する機構です。アレルギーも免疫反応のひとつで、食物として摂取した蛋白が自身の蛋白と異なると識別されれば免疫反応が起こります。摂取された蛋白がアミノ酸やペプチドにまで十分に消化分解された後に吸収されるのであれば有害な免疫反応は起きないはずです。

 しかし私たちが摂取する多くの蛋白はそれ程十分には消化されずに吸収されます。多くの人では自分の蛋白と多少異なる食物の蛋白が吸収されても、必ずしも不利なアレルギー反応が起こるとは限りません。

 アレルギーはすべての食物の蛋白が原因になるわけではありません。アレルギーを起こしやすい蛋白と、アレルギーを起こしやすい人の組み合わせで発病するものです。

徳島新聞2010年10月13日掲載

徳島県小児科医会 日浦恭一

 百日咳ワクチンが導入されるまではわが国の百日咳患者は年間5万人、死者2,000人発生していました。1950年に初めての百日咳ワクチンが導入されて、百日咳患者は激減し、1974年には年間の患者数200人まで減少しました。

 しかし百日咳ワクチンの重篤な副反応が続き、集団接種の中止や接種年齢の引き上げ、ワクチンに対する不信感も重なり、百日咳ワクチンの接種率が急速に低下した結果、百日咳患者が急増しました。1975年から1979年の間に31,000人余りの患者に死者113人が発生しました。

 1981年からはワクチンが改良されたこと、1994年には接種年齢が引き下げられたことから、再び患者数は減少し、2005年には発生数が1,358人まで減少しています。

 しかしその後百日咳は再び増加に転じ、10歳以上の百日咳、とくに20歳以上の患者発生数が著しく増加しています。2008年には過去10年で最高の6,500余名の百日咳患者が発生し、その半数以上を成人が占めています。

 ワクチンによって百日咳患者が減少すれば、患者と接触することで維持強化される免疫が得られなくなり、その結果として社会全体の免疫が低下することになります。

 日本では3種混合ワクチンとして百日咳ワクチンを接種するのは1歳未満で3回と1年後に追加の合計4回のみです。社会全体の百日咳に対する抵抗力の低下に対しては早期に追加接種を実施する必要があるのです。

徳島新聞2010年9月22日掲載

徳島県小児科医会 日浦恭一

 成人の百日咳の症状は咳が長引くだけですが、子どもが百日咳にかかると激しい咳込みなどの重い症状が見られます。またその症状は月齢が小さいほど重症になります。新生児や乳児期早期でも百日咳にかかりますから油断はできません。

 典型的な百日咳の症状は発作的に激しい咳が連続して起こり、その後に急速な吸気が起こります。「コンコンコン・・・」「ヒュー」というような咳の発作を反復することが特徴です。このような咳の発作は痙咳(けいがい)と呼ばれ様々な刺激で誘発されます。とくに食事中や睡眠中に起こりますから栄養障害や睡眠障害の原因になります。

 潜伏期間は7~10日間で、最初の症状は普通のかぜと変わりません。この時期をカタル期と呼びます。カタル期の後から咳が段々ひどくなり、本格的な咳の発作が見られるようになります。この時期は痙咳期と呼ばれ、1カ月近く続きます。その後、次第に咳が減少して回復期に入ります。

 百日咳の初期治療には抗菌剤が用いられますが、有効なのはカタル期までです。痙咳期に入ると抗菌剤も咳止めも効果はなくなります。

 家族内や保育園などで百日咳患者と接触した場合には抗菌剤の予防的投与を行います。予防接種を受けていても感染しますから予防投与は全員に行います。予防接種を受けていない新生児や乳児期早期の子どもにはとくに注意が必要です。

徳島新聞2010年9月15日掲載

徳島県小児科医会 日浦恭一

 成人の百日咳が増加しています。百日咳は元々子どもに多い病気です。成人の百日咳は典型的な症状がなく、長い期間続く咳が特徴で、診断が難しいうえに、成人では咳が長く続くだけでは医療機関を受診しない人も居ますから百日咳の正しい診断がついていないことがあります。このような成人の百日咳患者が免疫のない子どもたちと接触すると子どもたちの間に百日咳が増加します。

 百日咳は百日咳菌によって感染する細菌感染症ですが、その特徴的な症状は百日咳菌が産生する数種類の毒素によって発生します。レプリーゼと言われる激しい咳込みが子どもの百日咳の特徴的な症状です。新生児や乳児期早期には無呼吸やけいれんを起こし、脳炎や脳症の発生も問題になります。

 これまでの百日咳の流行は免疫のない子どもたちを中心にしたものでした。

 百日咳の発生は百日咳ワクチンの普及によって大きく減少し、2005年頃には年間1,500名ほどまで減少していました。しかしその後、徐々に増加して2008年には年間6,500名余りになり、そのうえ成人の割合が年々増加して50%を超えるようになりました。

 青年の百日咳が増加しているのはワクチンによって患者が減少し、患者と接触する機会が減り、この世代全体の免疫が低下していることを示します。子どもを産み育てる世代の百日咳は新生児や乳児の百日咳の感染源になりますから特に注意が必要です。

徳島新聞2010年9月8日掲載

徳島県小児科医会 日浦恭一

 病原大腸菌による食中毒では重篤な症状が見られることがあります。嘔吐や発熱、腹痛、下痢で発病しますが、下痢の回数が多く激しい腹痛を繰り返し訴えることが特徴です。下痢は水様下痢で便成分が少なくなり、次第に水様の血液が肛門から吹き出し鮮血便になります。血便や腹痛は1~2週間持続して徐々に回復します。

 発熱や激しい下痢のために食事が取れず脱水症を起こすことがあります。激しい腹痛を訴えますが痛み止めや下痢止めは腸管の動きを抑制して腸管内に病原菌を長く留めて病原菌の増殖を助けることになりますから使用しません。

 下痢を発病して3~7日目に溶血性貧血、血小板減少、腎機能低下による尿量の減少や無尿を認めることがあります。これが溶血性尿毒症症候群と呼ばれる合併症で、ベロ毒素を持つ病原大腸菌感染症では数%に発生します。溶血性尿毒症症候群は腎不全を来して生命を左右することがあります。

 乳幼児では病原大腸菌に対する抵抗力が弱く食中毒を起こしやすいのです。夏は気温が高く食中毒の原因菌が増殖しやすい時期です。食品の保存や調理には注意が要ります。

 食中毒予防には原因菌を「つけない」、「増やさない」、「殺す」の3原則を守ります。よく手を洗う、作ったものは早く食べる、十分加熱することなどが大切です。

徳島新聞2010年8月25日掲載

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