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 RSウィルスは普通、鼻の粘膜など上気道に感染しますが、ウィルスを含んだ分泌物が気管支などの下気道に吸引されると、下気道にも感染して気管支炎や細気管支炎を起こします。とくに新生児や乳児期早期では下気道炎になりやすく注意が必要です。

 下気道炎の中でも重篤なのは細気管支炎です。細気管支炎になると上皮細胞の壊死が起こり、細気管支周囲に炎症細胞が浸潤し、粘膜下組織には著明な浮腫が起こります。さらに上皮組織が剥離し、粘液分泌物が増加するために細気管支の内側、つまり空気の通り道が狭くなります。その結果、気道のもっとも細い部分で閉塞が起こりますから肺胞は虚脱して、肺胞でのガス交換ができなくなります。

 したがって細気管支炎の症状としては、気道の狭窄および閉塞にともなう著しい呼吸障害と、それによる低酸素血症が起こります。呼吸数の増加や努力呼吸、喘鳴やせきの増加に加えてしばしば無呼吸発作が見られることがあります。

 細気管支炎では激しい呼吸障害が起こりますから、元々呼吸機能の未熟な新生児や乳児期早期には酸素不足などによって生命の危険に陥ることがあります。

 また先天性心疾患や慢性肺疾患などの基礎疾患をもつ子どもたちがRSウィルスにかかって細気管支炎になると同じ様に大変重篤な呼吸症状を示して生命の危険に晒されることがあります。

 またRSウィルスは喘息発病の危険因子として知られています。RSウィルスの感染によって気管支炎が発生すると、気道組織の破壊や炎症性サイトカインと言う物質の産生が増加して、幼弱で未発達な気道を強く障害して、喘息を発病します。RSウィルス感染による細気管支炎は長期にわたって肺機能の異常を呈し、喘鳴をくり返します。とくに呼吸機能の弱い素質やアレルギー素因の子どもがRSウィルスにかかると喘息が発病しやすい訳です。

2008年12月17日掲載

 多くのウィルス感染症の流行には季節性があります。同じ感染症は毎年ほぼ同じ季節に流行することが多いのです。寒い時期に流行するウィルスの代表がインフルエンザですが、インフルエンザの流行と相前後して見られる感染症がRSウィルスです。

 RSウィルスは新生児期や乳児期早期にかかると重症の呼吸器症状を示すことがあって、小児にとって大変重要なウィルスです。

 RSウィルスの感染はのどや鼻など上気道から、接触や飛沫によってウィルスが侵入して感染が成立します。その潜伏期間はおよそ4~6日とされます。

 RSウィルスが上気道に感染すると、上気道炎となり、ここから鼻水や痰など気道の分泌物が多くなります。この分泌物中にはRSウィルスが多く含まれます。

 RSウィルスの感染が上気道に限局した状態のままで終われば、単なる上気道炎として普通のかぜ症状で終わります。上気道炎の主な症状は鼻水、のどの痛み、せき、発熱などです。一般のかぜ症状をひき起こすのはほとんどがウィルスです。RSウィルスはかぜ症状をひき起こすウィルスのひとつです。

 上気道に感染したRSウィルスは鼻水の中にたくさん分泌されます。このRSウィルスを含んだ鼻水がのどを通過して気管支などの下気道に下りてくると気管支炎や細気管支炎を起こします。

 気管支が細く枝分かれして細気管支と呼ばれる所にRSウィルスが感染すると細気管支炎が発症します。

 細気管支炎になると激しい呼吸障害を起こします。とくに新生児や未熟児、もともと心疾患や肺疾患など基礎疾患を持つ子どもたちがRSウィルスによる細気管支炎を発病すると大変重篤な呼吸障害から生命に危険を及ぼす場合があります。RSウィルスは子どもにとって大変重要なウィルスなのです。

2008年12月10日掲載

 子どもの腹痛は訴えがはっきりしないために診断に苦慮することがあります。また子どもの腹痛の原因疾患は年齢によって大きく異なりますから、診断に当たっては年齢を考慮する必要があります。

 乳幼児の腹痛の原因として大切なものに腸重積があります。腸重積は口側の腸管が肛門側の腸管に入り込むことによって発生する腸閉塞です。

 腸管が入り込んだ重積部分は血流が悪くなり、腸管浮腫をきたします。さらに重積が長時間続くと虚血のために腸管壊死に陥り、穿孔することがあります。

 腸重積は生後数ヶ月から2、3歳の乳幼児に多く見られます。腸重積の原因はわからないものが大部分ですが、アデノウィルスやロタウィルスなどの感染症が先行するもの、腸管ポリープ、メッケル憩室、消化管出血による血腫、血管性紫斑病などの器質的な異常が存在することもあります。

 症状としては激しい腹痛に嘔吐、血便、重積部分が腫瘤として触れることなどです。乳幼児では腹痛の訴えがはっきりせず、ただに不機嫌なだけの場合やぐったりしているだけの場合もあります。

 腸重積にこれらの典型的な症状がすべてそろっているわけではありません。浣腸しても始めははっきりしないこともあります。時間経過とともにイチゴゼリー状の粘血便が認められ、診断が明らかになることもあります。

 診断確定のためには症状に加えてエコーやX線検査などの画像診断が必要です。

 治療には肛門から空気や造影剤を注入して圧力をかけて、重積部分を整復します。しかし発病後、長時間たっていて穿孔する危険性があるものや、腸閉塞によってショックを起こしているもの、基礎疾患があるものなどは外科的な治療を念頭に置いて治療を開始します。

2008年11月26日掲載

 子どもが腹痛を詳しく正確に伝えることは難しいものです。しかし腹痛の発生機序を知っておくことはとても大切なことです。

 腹部臓器から発生する痛みは内臓痛と言われます。内臓痛には管腔臓器から発生するものと、実質臓器からの痛みに分けられます。

 管腔臓器(胃腸、胆道、すい管、尿管、膀胱、子宮など)から発生する痛みは、ぜん動運動などで平滑筋が収縮するときに発生する発作的な痛みです。 実質臓器(肝臓、脾臓、腎臓、すい臓、卵巣など)からの痛みは臓器が腫れてその皮膜が伸展するときに発生する持続的な痛みです。

 内臓痛は一般に鈍い痛みで限局性に乏しく主として上腹部や臍周囲、下腹部などの正中部に多く見られます。

 これに対して体性痛は、臓器の炎症が腹膜や腸間膜、横隔膜におよぶときに見られる痛みで、歩行などの体動時に痛みが増強されようになりますから、患者さんは痛みがもっとも少なくなるように、屈み込んだり、エビのように腰を曲げたりする姿勢をとります。このような体性痛は病変部位に一致して起こることが多く、限局的で、持続的な強い痛みです。

 体性痛を訴える場合には消化管穿孔や腸閉塞、急性腹膜炎をともなった虫垂炎などの急性腹症である可能性があります。

 急性腹症とは、激しい腹痛を訴えるものの中で、できるだけ早く、何らかの医学的な処置を開始する必要があるものです。

 急性腹症にはさまざまな疾患が含まれます。初期の判断が遅れると取り返しのつかない状態になることがありますから、できるだけ早く診断し、治療方針をたてる必要があります。急性腹症を思わせる激しい腹痛を訴える患者さんを診たときには緊急の検査ができて、常に外科医に相談できるような病院で治療に当たる必要があります。

2008年11月19日掲載

 小児科を受診する理由の中で腹痛は大きな割合を占めています。しかし乳幼児は腹痛をことばで正確に伝えることができません。そのために診断や治療が遅れることがあってはなりません。今月は腹痛を訴える子どもの病気について考えてみました。

 腹痛の原因疾患はとても多いものです。中でも多いものは急性胃腸炎や便秘症ですが、胃十二指腸潰瘍や急性虫垂炎、腸重積症、消化管ヘルニア、消化管穿孔などの消化管の疾患も多く見られます。他に、肝臓・胆道系の疾患や腎臓・泌尿器疾患も腹痛の原因として大切なものです。腹部臓器以外の疾患でも、肺炎や溶血性尿毒症症候群、血管性紫斑病、てんかんなどの全身疾患で腹痛が見られることがあります。これらの腹痛を示す疾患の中には緊急手術などの外科的処置を必要とするものがありますから注意が必要です。

 子どもの腹痛の訴えは伝わりにくく、痛みの部位や性質、食事との関連、排便や排尿との関係などについて正確に聞き取ることは難しいものです。その場合には両親など保護者からの情報も大切です。

 腹痛の訴えが正確に伝わらない場合でも、腹痛が激しい場合には、ぐったりしているとか、激しく泣く、泣き止まない、嘔吐する、ミルクを飲まないなど症状が見られ、そこにはときとして緊急性の疾患が隠れていることがあります。

 激しい腹痛を訴える場合にはできるだけ早く診断して、治療を開始することが求められます。このような場合でも発熱の有無や血圧、脈拍、顔色など全身状態を把握しておくことが大切です。発熱のあるときには感染症が考えられ、顔色が蒼白で血圧の低下や脈拍が弱々しく多い場合にはショック状態にあることが疑われますから、全身状態を十分把握して、腹痛に対応する必要があります。

2008年11月12日掲載

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