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ひうら小児科 日浦恭一

 からだが鉄不足の状態になったとき、体内では最初に貯蔵鉄が減少します。次いで血清鉄が減少し、貯蔵鉄が消失すると赤血球内のヘモグロビン鉄が減少し始めます。ヘモグロビン鉄が減少すると赤血球数の減少や赤血球が小型になって貧血が起こります。

 貧血がゆっくり進行した場合には明らかな症状が見られないこともあります。しかし貧血に至らない状態でも鉄が不足した状態はからだの中で異常が起こっている可能性があります。

 鉄は脳に多く含まれ神経系で大切な働きをしていますから、出生直後から急速に脳に取り込まれます。鉄は神経細胞の髄鞘形成に必要な脂質形成やセロトニン、ドパミン、ノルアドレナリンなど多くの神経伝達物質の合成酵素に必要とされます。とくに胎児期後半から出生後2年間くらいは中枢神経回路網が急激に発達する時期ですから、この期間に鉄欠乏があると脳代謝、髄鞘形成、神経活動や神経のシナプス形成に取り返しのつかない変化が起こる可能性があります。

 鉄欠乏は脳内のドパミン、セロトニン、ノルアドレナリンなどの神経伝達物質の合成異常や、これらを分解する鉄含有酵素の活性障害を起こします。ドパミンは認知、感情調節あるいは運動に関与しているために、鉄欠乏時に認知力の低下、感情調節の障害、集中力の低下の原因になります。セロトニンは生体に対する過剰な刺激を調節して過敏な行動を抑制する働きがあります。鉄が欠乏してセロトニンの変化が見られるとイライラ感などの情緒異常が現れることがあります。さらに鉄欠乏時には学習能力が低下する可能性もあります。

 乳児期には急速な成長にともなって鉄も大量に必要になりますが正常新生児や栄養が十分に取れている乳児については神経質になる必要はありません。生理的に鉄が不足する離乳期に鉄の必要量を考慮して適切に離乳食を進めることが大切です。

徳島新聞2009年5月20日掲載

ひうら小児科 日浦恭一

 ヘモグロビンの役割は酸素を運搬して組織に酸素を供給することです。ヘモグロビンの不足した状態を貧血と言います。貧血になると組織が酸素不足に陥り様々な症状が現れますが、急激に起こった貧血以外では明らかな症状が現れないこともあります。今月は子どもの貧血について考えてみました。

 貧血にはその原因によって次の4つが考えられます。(1)血液を作る骨髄の異常による貧血、(2)血液を作る材料不足による貧血、(3)赤血球寿命が短く赤血球が壊れやすくなって起こる貧血、(4)赤血球が失われて起こる貧血です。

 (1)には再生不良性貧血や白血病など、(2)には鉄や葉酸、ビタミンB12の不足から来る貧血、(3)には溶血性貧血、(4)には外傷や消化管出血などによる貧血が含まれます。
 この中で子どもにもっとも多いものは鉄欠乏性貧血です。

 ヘモグロビンを作るにはその材料である鉄が必要です。血液量はからだの大きさに比例しますから成長が著しいときにはヘモグロビンの材料となる鉄の必要量も増加します。とくにからだの成長が著しい乳幼児期と思春期には鉄の必要量が増加します。

 成人ではからだの中に3~4gの鉄があります。その65%がヘモグロビン鉄として存在し、残りの30%はフェリチンやヘモジデリンなど貯蔵鉄として存在します。その他の鉄は、ミオグロビンとして筋肉内に3.5%、チトクロムやカタラーゼなどの酵素として0.5%、さらに血清鉄として0.1%が存在します。

 からだの中にある鉄は毎日1mg程度が大便や尿、汗などに排出されています。この排出量と同じ程度の鉄を食事から補給する必要があります。また乳幼児期や思春期にはからだが急速に大きくなりますからその成長に見合った量の鉄を補給する必要があります。

 排出される鉄や成長に必要な鉄を食事から補給できなければ鉄欠乏性貧血になります。

徳島新聞2009年5月13日掲載

ひうら小児科 日浦恭一

ノロウィルスはウィルス性胃腸炎の原因として大切なものです。子どもから老人まで感染し、食中毒としても、学校や病院などで集団発生する疾患としても重要なものです。

 このウィルスは1968年アメリカ合衆国オハイオ州ノーウォークの小学校で発生した集団胃腸炎の原因ウィルスとして発見されたものです。その形態から小型球形ウィルス、またはノーウォーク様ウィルスと呼ばれたものです。2002年国際ウィルス命名委員会にてノロウィルス属に分類されました。

 ノロウィルスは感染力が強くわずかなウィルス粒子で感染すると言われます。
 感染様式は患者さんから出た吐物や糞便からの経口感染、食品にウィルスが付着してこれを摂取した人が発病する食中毒、空気中に漂うウィルスを吸い込むことによって発病する空気感染などがあります。

 ノロウィルスの潜伏期間は1~2日間です。潜伏期間の後、吐き気、嘔吐、下痢、腹痛、発熱などの症状で発病します。ウィルス感染が起こると、まず胃のぜん動運動の低下や麻痺によって胃内容物の停滞から嘔吐が起こります。十二指腸や空腸など上部小腸に感染すると一時的に脂肪や乳糖の吸収が悪くなり、腸管の吸収面積が減少、浸透圧の変化、腸管ぜん動運動の低下や亢進などのために下痢が生じます。

 胃腸炎の症状は半日から5日間程度持続します。下痢が治ってもウィルスはしばらく便中に排出されます。

 ノロウィルスには特別効果のある薬剤はありません。治療の基本は安静と保温に加えて食事療法です。嘔吐が激しいときには絶食にしますが、嘔吐が軽くなったときに水分や電解質の補給を心がけます。少量のイオン飲料や果汁、野菜スープなどを試み、母乳はそのまま与えますが、ミルクは少し薄めて与えます。脱水症の予防には最近市販されている経口補液も便利です。

 ノロウィルスは感染力の強いウィルスですから予防がもっとも大切です。

徳島新聞2009年4月22日掲載

ひうら小児科 日浦恭一

 ロタウィルスは冬に流行するウィルス性胃腸炎の代表的な原因です。ウィルス性胃腸炎の中でも激しい嘔吐と大量の下痢をともなうものですから、乳児がかかると脱水症を起こすことがあります。

 ロタウィルスによる胃腸炎では大便が灰白色で水様、米のとぎ汁様になります。ロタウィルスが発見される前には『乳児白色便性下痢症』とか『乳児仮性コレラ』と呼ばれ、脱水症を起こすことが多い病気として恐れられていました。しかし最近、このような真っ白な便を見ることは少なく重症の脱水症を起こすロタウィルス感染症は少なくなってきているように思われます。

 ロタウィルス感染症は生後6ヶ月から2歳をピークに5歳までに95%の乳幼児がかかると言われます。このウィルスには多くの血清型があり小児期に何度もかかりますが、一度かかると2回目以後はだんだん軽症になります。患児の両親など成人の発病、老人の施設内での流行が見られることもあります。

 潜伏期間は48時間前後と短く、発病後1週間は糞便中に大量のウィルスを排出します。このウィルスは安定したウィルスで汚染された物質から数時間は感染力を保持していると言われます。ウィルスは糞便中だけでなく吐物にも含まれます。

 ロタウィルスによる胃腸炎の合併症でもっとも多いのは脱水症です。普通、嘔吐や発熱は1~2日でおさまりますが、激しい下痢にともなって大量の水分と電解質が失われて、多くは低張性脱水となります。脱水症を予防するためには水分とともに電解質を補給することが大切です。

 ロタウィルスの合併症としてよく知られているのがけいれんです。発熱もなく脱水症もない軽症のウィルス性胃腸炎でもけいれん発作が起こることがあります。通常の熱性けいれん予防に使用されるジアゼパム座薬は無効です。このけいれん発作は長時間持続するタイプと、けいれんが断続的に持続するタイプがあり、治療に苦労することがあります。

徳島新聞2009年4月15日掲載

ひうら小児科 日浦恭一

 嘔吐下痢症はウィルス感染による胃腸炎です。原因ウィルスとしてロタウィルスとノロウィルスがよく知られています。伝染力が強いので集団生活の場で一人でも患者さんが発生すると次々伝染して大問題になります。今月はロタウィルスとノロウィルスによる胃腸炎について考えてみました。

 ウィルス性胃腸炎にはよく見られる症状が3つあります。嘔吐と発熱と下痢の3症状です。3つがすべてそろっていることもあれば嘔吐と下痢だけとか、下痢と発熱だけとかのように3症状がそろっていないこともありますから、嘔吐下痢症と言う病名は当てはまらない場合があります。そこで適切な病名はウィルス性胃腸炎または感染性胃腸炎となります。

 潜伏期間はロタウィルスで2~3日、ノロウィルスでは1~2日と短いものです。ウィルス性胃腸炎の中でロタウィルスは乳幼児期に、ノロウィルスは乳幼児から老人までどの年齢層にも見られます。

 ウィルスの主な感染経路は糞便中のウィルスから経口的に感染するものです。患者の糞便中には大量のウィルスが含まれます。このウィルスに汚染された食物を摂取すると食中毒として発病します。またウィルスに汚染された衣服や手指によって人から人へ感染することもあります。また吐物の中に含まれるウィルスが空気中を漂うことで空気感染することもあります。

 これらのウィルスは伝染力が強いので集団内での感染予防が重要です。学校、幼稚園、保育園、老人の介護施設、病院などでウィルス性胃腸炎が一人でも発生すると次々患者さんが発生することになります。とくに家族、医療従事者、保育者などを介して伝染することがありますから、これらの子ども、老人、病人に接触する人は感染予防に注意する必要があります。

徳島新聞2009年4月8日掲載

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