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県民の皆さまへ

 今月は睡眠リズムについてお話しています。人の睡眠は約24時間周期で毎日繰り返す生理現象ですが、人の体内時計の周期は約25時間です。私たちは環境の時間に自分の時計を合わせることによって24時間周期を保って環境に適応しているのです。しかし体内時計の周期は1日よりも長いので放っておくと夜更かしや朝寝坊になりやすいという特徴を持っています。

 体内時計の時間合わせに大切な手がかりのことを同調因子と言います。同調因子として大切なものは光や音など物理的な変化ですが、人では食事や社会的な因子が重要であるとされます。

 体内時計は視床下部にある視交叉上核(しこうさじょうかく)にあるといわれます。光は体内時計を刺激するもっとも強力な同調因子となります。体内時計は朝の光を浴びることで毎日リセットされます。どんなに夜更かしをしても、朝日を浴びることによって体内時計をリセットし体内環境のリズムを継続することができるのです。

 しかし光に対する体内時計の感受性はその光を浴びる時間によって異なります。朝の光は時計のリセットとして働きますが、夜の光はむしろ昼間の延長として感じられます。つまり夜遅くまでテレビやパソコンの画面を見つめて光を浴び続けていますと、体内時計はいつまでも昼間であると感じてその周期は長くなります。体内時計の周期が長くなると夜更かしで朝寝坊になります。

 体内時計は睡眠リズムを調節するとともに体温や内分泌のリズムなどにも影響を及ぼしています。体温や内分泌リズムも睡眠リズムと一定の関係を保ってリズム同士が同調しています。しかし夜更かしを続けて睡眠のリズムが乱れてきますと、体内のさまざまな生理的なリズムにずれが生じます。これを脱同調と言います。生体リズムが脱同調を起こしますと体調の変化をきたし、時差ぼけの状態に似た症状が出てきます。強い眠気や倦怠感を覚えて、記憶力や学習意欲の低下を招き対人関係にも問題が出るなど、学校や社会生活に支障をきたします。

 睡眠リズムは私たちの生活の基本です。子どものころから早寝早起きの習慣を大切にしたいものです。

2006年9月26日掲載

 子どもの睡眠の乱れが問題になっています。睡眠が乱れると、睡眠とともに変動するいろいろな体内の生理現象にも変化が起こります。どのような変化が起こるのかその問題点について考えてみました。

 人の生理機能は睡眠だけが単独に働いている訳ではありません。睡眠と覚醒の変化にともなって、多くの生理機能や内分泌機能が一定の関係を保って変動しています。とくに睡眠と関係深いホルモンには成長ホルモン(GH)、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、コーチゾルなどがあります。これらのホルモンは脳の視床下部から刺激を受け、脳下垂体から分泌されます。

 GHは入眠直後の深い睡眠で多く分泌されます。昔から「寝る子は育つ」と言われます。寝つきの良い子どもは入眠直後に深い睡眠に陥りますからそれだけGHの分泌も増加します。したがってGH分泌が増加することによって成長も良くなるという意味です。

 反対に寝つきが悪く、眠りの浅い子どもはGHの分泌が十分ではないので成長に影響が出てきます。睡眠が障害されるような慢性疾患があると成長も障害を受けます。熱や痛み、咳などが夜間に何度も起こると睡眠は障害されます。このような症状が慢性的に見られる時にはその原因疾患を治療し症状をコントロールすることで、睡眠障害を取り除くことができます。

 ACTHやコーチゾルは人の活動に密接な関係を有するホルモンです。夜明け前に分泌が増加することによって覚醒後の活動の準備が整うものです。これらのホルモンの分泌が十分でなければ覚醒後の活動が十分にできなくなると思われます。

 私たちが社会に適応して活発に生活するためにはさまざまなホルモンが必要です。これらのホルモンが適切に分泌されるには良い睡眠をとることが必要です。さらに良い睡眠は、睡眠直前の活動状態に左右されます。

 昼間にしっかり運動をして太陽の光を浴びることで夜間の睡眠に入りやすくなり、さらにこのことが体内の内部環境を整えるのに大切なホルモン分泌を良くすることにつながるのです。

2006年9月19日掲載

 朝起きられない子どもたちが増えています。さらに大人も子どもも睡眠時間が昔より随分短くなったと言われます。睡眠は大切な生理機能ですから、睡眠時間の減少や夜更かしが子どもたちのからだに大きな影響を及ぼしていることがうかがわれます。今月は子どもだけでなく大人にとっても大切な睡眠の役割について考えてみました。

 朝起きられない子どもたちの最大の原因は夜更かしです。どの家庭にもテレビやビデオ、パソコンが普及し、コンビニや外食産業など終夜営業の店が増加したことで、私たちの生活は夜型になってきました。多くの子どもたちがテレビやパソコンの画面を見つめて夜更かししています。昔の農業中心の社会とは生活様式が大きく変化してきました。

 社会生活の変化の結果、大人の社会でも睡眠リズムの異常や睡眠時間の短縮が見られます。それに引きずられるように子どもたちの睡眠パターンも夜型に変化しています。夜型の生活は夜更かしにつながり、睡眠不足を生じますが、朝寝坊することでこの不足した睡眠時間を取り戻すことはできません。これは夜の睡眠と朝の睡眠とでは質的に異なるからです。

 それでも多くの子どもたちは、朝眠い目をこすりながら必死で起きて学校に通います。時には朝寝坊して遅刻することもあります。ところが中にはまったく朝起きることができなくなり、徐々に昼夜が逆転し、その結果昼間の学校生活からだんだん遠ざかっていく子どもがあります。不登校の子どもの中にはこのような睡眠・覚醒リズムの障害を示す子どもがいるのです。

 私たちのからだの中にある体内時計は毎日決まった時間に寝たり起きたりすることによって時計合わせをしているのです。1日は24時間ですが、体内時計の1日は約25時間になっています。毎日、時間合わせをしていなければ体内時計と環境の時間にずれが生じて、環境に適応できなくなります。

 体内時計を環境時間に合わせて夜に良い睡眠をとるためには、朝の太陽光線をいっぱい浴びることと昼間にからだをしっかり動かして活動することが大切です。

2006年9月12日掲載

 ポリオワクチンは大変すぐれたワクチンで、現在日本では野生のポリオを見ることはありません。しかし生ワクチンであるために起こる問題もあります。今回はそれについて考えてみました。

 ポリオワクチン投与後にワクチン株のウイルスが腸管で増殖する途中、野生株に戻り神経毒性を回復することがあります。この野生株復帰ウイルスによってワクチンを投与された子どもや周囲の免疫を持たない人にポリオ麻痺が発病することがあります。これをワクチン関連麻痺性ポリオ脊髄炎と言います。

この副反応の頻度はワクチンを受けた人について440万回の接種に1回、接触した周囲の人が発病するのは580万回に1回とされます。また免疫不全状態の人がこのポリオを発病する頻度はそれよりも高くなるとともに、毒力を回復したウイルスの排せつも長くなると言われます。

 現在、経口生ワクチンを使用している国は日本、英国、インド、インドネシア、ブラジルなどと多くの開発途上国です。これに対して不活化ワクチンを使用しているのはアメリカ、カナダ、オランダ、ドイツなどです。また不活化ワクチンと生ワクチンを併用している国にはフランス、イタリア、オーストリアなどがあります。

 生ワクチンの免疫は血液中の中和抗体の上昇に加えて、腸管の局所免疫を誘導して、その効果がすぐれています。それに対して不活化ワクチンでは腸管局所免疫は得られませんが、血液中の抗体の上昇は生ワクチンよりも高く、血中抗体陽性率も3回投与で99~100%得られることが明らかになっています。

 ポリオの流行地域で使用するワクチンは生ワクチンが効果的です。ワクチンそのものが安価で、経口投与はとても簡便です。しかしポリオ患者が制圧された国で生ワクチンを使用し続けることはワクチン関連麻痺性ポリオ脊髄炎というような副作用が大きな問題となります。

 世界中にはまだポリオが制圧されていない国や地域があります。世界中のポリオが根絶されるまでは日本でもポリオワクチンを投与し続ける必要があります。そのためにはより安全なワクチンの投与法確立が望まれるのです。

2006年8月22日掲載

 現在ポリオワクチンは生後3カ月から90カ月の間(標準は生後3カ月以上18カ月未満)に6週間以上の間隔をおいて2回、多くは集団で経口投与されています。このワクチンには1、2、3型の3種類の弱毒ポリオウイルスが含まれます。3種類のポリオに対して1回服用では3種類全部に対する免疫はできません。1回目に免疫のできなかった型のウイルスでも2回目を服用することによって免疫が成立します。

 ワクチンは6週間以上あけて投与することになっていますが、この間隔は長くなっても免疫のでき方に差はありません。ワクチン投与時に下痢症にかかっているとワクチンを投与しても下痢のためにワクチンウイルスが排出されてしまうことや、下痢症を起こすウイルスとの干渉作用のためにワクチンウイルスが腸管で増殖できずに免疫ができなくなることがあります。

 ワクチン服用直後に嘔吐した場合にはウイルスが腸管で増殖することはできませんから再投与を受ける必要があります。

 現在使用されているワクチンは大変すぐれているので、2回投与で1型、2型ともに95%以上の抗体獲得率を示します。3型でも80%以上抗体を獲得するとされます。しかし、この抗体獲得率を100%近くにするには4回以上服用することが必要だと言われています。現在、生ワクチンを使用している多くの国では4回投与をしています。

 わが国では2回投与でポリオが根絶されたために、従来どおりの2回投与を続けています。しかし2回投与を続けてきたために抗体獲得率の低い年代があることがわかってきました。それが1970~1972年生まれの人たちです。現在、日本には野生のポリオはありませんが、まれに子どもに投与したポリオワクチンのウイルスが野生化して、神経毒性を獲得することによって、ワクチンを受けた子どもやその周囲の人が発病することがあります。

 したがって、免疫の低い可能性のある人は、子どもがポリオを服用する時に一緒に免疫をつけておいたほうが安全です。

2006年8月15日掲載

© TOKUSHIMA MEDICAL ASSOCIATION.