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県民の皆さまへ

 乳幼児の健診では体重や身長と共に必ず頭囲を計測し、診察でも頭部を触診します。今回は頭の計測や触診でどのような情報が得られるのかについてお話ししたいと思います。

 頭の大きさには個人差がありますが、新生児期から乳幼児期に頭囲は急速に大きくなりますが、これは脳が急速に大きくなるためです。頭囲と脳の重量には密接な関係があり、頭囲を測定することで脳の大きさを推定することが出来ます。脳は大切な臓器なので頭蓋骨に被われていますが、新生児期には骨縫合や大泉門は開いており脳の成長に合わせて急速に頭囲が増大することが出来ます。頭囲は5歳くらいまで急速に増大しますが、この頃を過ぎると骨縫合は閉鎖し頭囲の増加が停止しほぼ一定の頭囲になります。

 頭囲が標準に比べて大き過ぎる場合や小さすぎる場合には様々な神経疾患が隠れている可能性があります。標準値から3cm以上離れている時には慎重に経過観察する必要があります。新生児期から頭囲が小さい人には、出生前の遺伝的な原因や染色体異常、胎生期の感染症、周生期の循環障害など様々な原因の小頭症が考えられます。乳児期に著しく頭囲が小さい人には、明らかな症状が無くてもCTやMRIなどの検査を行い、その後も神経症状や発達について専門医による注意深い経過観察が必要です。また反対に頭囲が異常に大きい場合にも知能障害や発達遅滞などを示す人もあり注意が要ります。

 大泉門は頭蓋骨が無い菱形の部分ですが、そのために頭蓋内の情報が多く得られます。大泉門は普通、平坦ですが、時に拍動が見られるように体内の循環動態を反映しています。脱水症の時には大泉門は落ち込み、発熱児には膨隆します。特に大泉門が異常に膨隆している場合には頭蓋内圧の亢進をしめす微候であり注意が要ります。脳圧が亢進すると頭痛や嘔吐などの症状が現れますが、新生児や乳児では頭蓋内圧が亢進した場合でも大泉門が膨隆することや骨縫合が解離して頭囲が拡大することにより亢進した脳圧を逃がし、重篤な症状が出現するまでに時間がかかることがあり、注意深い観察が大切です。

2003年5月27日掲載

 子どもをあやすつもりで縦に抱いて激しく揺すぶると、時に脳出血を起こして重篤な脳障害を来たすことがあります。とくにまだ首が座っていない乳児ではこの危険性が高くなります。乳幼児に対する乱暴な取り扱いは時として乳幼児の虐待と考えられるものもあり慎重な対応が求められます。乳幼児を喜ばせる目的であっても、その結果が障害を来たすものであってはなりません。

 養育者が乳幼児の両脇を持って激しく揺さぶると、2歳未満の乳幼児、とくに6ヵ月未満の乳児には硬膜下血腫やくも膜下出血、網膜出血が多く見られます。多くの症状はけいれんや意識障害、チアノーゼや顔面蒼白などで発症します。その症状は軽微な場合にはあまりはっきりせず、CTスキャンなどを検査しなければ出血を確定することが出来ないこともあります。

 この疾患が乳児に発症しやすいのは、乳児の頭部が身体に比べて重いこと、頚部の力が弱いこと、乳児の脳組織が柔らかいためで、揺さぶりによって脳に加速・減速・回転などの力が強く作用する結果、脳表面にある大きな静脈と脳内を結ぶ細い血管がその結合部で破綻しやすく、硬膜下血腫やくも膜下出血を起こしやすいとされます。その他、脳挫傷や頚髄損傷なども起こることがあるとされます。

 揺さぶられっ子症候群は欧米では虐待と考えられると言われます。脳障害を来たす可能性がある行為を、それと知らずに行うことが問題にされるのです。本症が起こる状況として、

1. 故意に行う虐待の場合、
2. あやすつもりで行う誤った育児行為、
3. 泣き止まない時に背中を強く叩くことや、落ちそうになった時に
  とっさに腕をつかんで引っ張り上げる時

など無意識の行為があります。

 本症ははっきりと診断がつかなければ乳幼児突然死症候群と診断されたり、後遺症による脳性麻痺や精神遅滞、てんかんなどの原因不明疾患とされていることも考えられます。無意識に行った揺さぶり行為が重篤な疾患を引き起こすことを知って乱暴な取り扱いに注意して下さい。

2003年5月20日掲載

 麻疹の伝染力は非常に強く、免疫の無い人が接触すると100%感染すると言われています。さらに麻疹は非常に重篤な疾患であり、適切な医療を受けない場合の死亡率は2~5%であるとされます。また脳炎の合併率は1,000人に1人であり、脳炎を発症した場合にはその4分の1が死亡するといわれます。子どもには絶対にかからせたくない疾患です。

 最近、全国各地で麻疹の流行が見られて問題になっています。麻疹にかかるのはほとんどが麻疹ワクチンを接種していない乳幼児ですが、ワクチン接種して年月の経った長年児や成人の麻疹も見られております。麻疹が流行するのは集団の麻疹に対する免疫が低下しているためであると考えられます。麻疹の流行を阻止するためには多くの人達が抵抗力を持つ必要があります。麻疹では流行を阻止する集団免疫率が90~95%必要であると言われます。麻疹の流行を抑えるためには集団が極めて高い免疫率を保つ必要があるという訳です。この免疫率が維持されていない場合には免疫のない人が年々蓄積して、免疫のない人が多くなりますから、数年毎に麻疹が繰り返し流行することになります。ワクチンが無かった時代には2~3年毎に麻疹の流行が見られました。ワクチンが普及してからは定期的な流行はありませんが、それでも何年か毎に流行が見られるのはワクチン接種率が90%以上にならないからに他なりません。現在、定期予防接種は90ヵ月までに接種することになっています。従ってワクチン接種率が90%であると言っても2歳未満児の接種率が90%ある訳ではありません。1歳を過ぎれば出来るだけ早い時期にワクチンを接種し、1歳児の接種率を90%以上にしてこれを毎年積み重ねることで3歳までの接種率を95%以上に持っていくことが目標になります。個別にワクチンを2回接種しても流行を阻止することは出来ないとされます。1歳児のワクチン接種率を90%以上になるように、出来るだけ早期にワクチンを接種することが望まれます。

2003年5月13日掲載

 血管性紫斑病は小児によく発病する全身の血管炎で皮膚症状、関節症状、消化器症状を主な特徴とする疾患です。

 紫斑病の発疹は初期には蕁麻疹様で1~2日すると紅斑から出血斑に変化します。発疹は左右対称性に出現して下肢伸側に多く膝、足、臀部に好発します。上肢でも肘関節周囲の伸側に多く見られます。出血斑は多くが2週間以内に自然に消退します。

 血管性紫斑病に皮膚症状は100%出現します。関節症状は50~60%に見られますがその症状は足や膝の1つか2つの関節に疼通、腫脹、運動制限が見られますが比較的軽く終わるとされます。腹部症状は消化管出血による症状で腹痛、嘔吐、血便、下血などが見られます。腹部症状は50~60%出現しますが、紫斑出現の1~3日前に腹部症状が見られることがあり、この場合には腹部症状が強いと言われます。消化器症状の合併症として腸重積や虫垂炎も知られており激しい腹痛を見た時には血管性紫斑病による腹痛も鑑別する必要があります。

 血管性紫斑病に合併した腎炎は紫斑病の予後を左右すると言われます。紫斑病では免疫グロブリンの1種IgAを含む免疫複合体が腎臓の糸球体メサンギウムに沈着することで腎炎が発症すると言われます。従って、慢性腎炎の代表的な疾患であるIgA腎症と多くの共通点を持ちます。紫斑病における腎炎発生頻度は20~60%とされ、9歳以上の年長児に多く、小児腎炎の15%を占め重要な疾患です。腎炎発症までの期間は45%が1週間以内、80%が1ヵ月以内であるとされますが3ヵ月をこえるものが数%あり長期経過観察の必要があります。紫斑病はほとんど予後良好の疾患ですが、腎炎の重傷度が紫斑病の予後を決定するとされます。

2003年4月22日掲載

 出血斑(紫斑)は出血傾向を示す皮膚症状ですが、紫斑を呈す疾患には

1. 血管の異常、
2. 血小板の異常、
3. 凝固・線容系の異常

の3つに大別されます。小児に見られる紫斑の原因としては血管異常による血管性紫斑病が最も多いとされます。しかし紫斑を示す、すべての患者さんが血液検査の必要な紫斑病であるとは限りません。詳しく問診や皮膚を観察することで外傷による紫斑などを簡単に鑑別することができます。

 最も多い紫斑の原因は外傷など機械的な圧迫や血管内圧の亢進で起こる出血です。強い咳や嘔吐の時に目の周りに点状出血が出現することや、激しい運動時に踵の周辺に赤黒い点状出血が見られることがあります。これらの機械的な紫斑については特別な治療なしに1週間程度で消退します。

 血管性紫斑病は小児に好発する全身の血管炎で、皮膚症状、関節症状、消化器症状を主微とする疾患で、血小板や凝固系など血液検査に異常は見られません。腎合併症はよく見られる症状で本症の予後に影響を及ぼします。本症は3~7歳に多く見られ、小児では男児にやや多く発生する傾向があります。

 この疾患は何らかの抗原刺激で形成されたIgAの免疫複合体が皮膚、腸管、腎臓の血管壁に沈着し、その結果、血管炎を起こして発生すると考えられています。本症の発生前には先行感染が約50%あるとされ、中でも多いのは溶連菌感染症であるとされます。その他の感染因子としてマイコプラズマやレジオネラなどの細菌やEB、B型肝炎、水痘、アデノ、サイトメガロなどのウイルスがあげられ、ペニシリンなどの抗生剤、卵や牛乳などの食物、予防接種や昆虫刺傷なども発病の原因になるとされます。

 本症の診断は比較的簡単ですが、紫斑出現前に見られる腹痛は虫垂炎や腸重積など外科的疾患との鑑別が必要です。また本症は比較的予後良好な疾患ですが、合併する腎炎の重症度が紫斑病の予後を決定するとされ、小児にとって血管性紫斑病は重要な疾患です。

2003年4月15日掲載

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